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【装丁入魂】ブックデザイナー・大倉真一郎さん 喜劇的装いと「わくわく感」

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『毒薬の手帖』
『毒薬の手帖』

 □デボラ・ブラム著、五十嵐加奈子訳「毒薬の手帖」(青土社、2600円+税)

 クロロホルム、ヒ素、タリウム…。今でもこんな毒物などを使った殺人未遂事件のニュースを目にすることがある。本書は1世紀ほど前の米ニューヨークで、同様の毒薬事件捜査に欠かせない検出方法の確立など法医学の基礎固めに尽力した男たちの物語である。

 表紙の写真に写る2人が作品の主人公だ。右の体格のいい男は大学時代にフットボール選手として活躍し、公共心に富む仕事ぶりで知られた法医学者ノリス、左の小柄な男は疲れを知らない研究熱心な毒物学者ゲトラー。写真の舞台はゲトラーの実験室とみられる。原書には掲載されていないが、編集者がインターネット上で発見し、許可を得て掲載したという。

 それにしても、なぜ昔の写真を使ったのか。「文字主体のきれいな装丁も考えていたのですが、物語自体の持つわくわく感や魅力を伝えるために写真を使いました」と大倉真一郎さんは話す。

 しかし、この写真、よくみると少し滑稽だ。普通は白衣姿であるはずの実験室で、スーツ姿の2人は硬い表情のまま毒物を検出する試験管を凝視する。カメラマンのOKが出るまで何度も撮り直したであろうことは想像に難くない。

 「ちょっと喜劇的というか。(喜劇俳優で映画監督の)キートンの映画に出てきそうな感じが良かった。これでわくわく感が出たと思います」(大倉さん)

 段ボールのような薄茶色だけの装丁も、ジャズ・エイジと呼ばれた狂騒の1920年代の雰囲気を醸し出すことに一役買っている。

 今年1月に発行されたばかりの本書の装丁で、大倉さんには小さな思い出がある。編集者から「毒薬の手帖」と書かれた1本の依頼メールに「おや? 澁澤の本?」と心が高鳴ったという。大倉さんが愛読する小説家・澁澤龍彦の本に、同じタイトルの本があったからだ。今回は米サイエンスライターの作品だったが、毒薬事件に関するエッセーをつづった澁澤本を多忙なブックデザイナーが手掛ける日がいつか来るかもしれない。

 実際の毒薬事件をミステリー風に描いた今回の作品では何よりも、「予算不足、人手不足、備品不足」という環境下で困難な任務を遂行する主人公たちの不撓(ふとう)不屈の精神に心を打たれた。法医学に携わる現代の捜査関係者にも手に取ってほしい一冊だ。(花房壮)

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