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女性を生きる苦悩と解放 直木賞作家・島本理生さん新刊「夜 は お し ま い」 

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息子は小学生に。「成長したらしたで、やんちゃなところも出てきて大変」と笑う作家の島本理生さん
息子は小学生に。「成長したらしたで、やんちゃなところも出てきて大変」と笑う作家の島本理生さん

 「自分の内面を深く掘る感覚があった。この小説を必要とする人に届いたらうれしい」。直木賞作家、島本理生さん(36)の新刊『夜 は お し ま い』(講談社)は、傷つけ、傷つけられながら懸命に生きる女性の苦悩と再生を見つめる。最近エンターテインメント小説へとかじを切るった作家が自身にとって最後の純文学、との思いでつづった痛切な連作集だ。

 付き合ってもいない男性に軽薄に迫られたいと願う女子大学生。自らを傷つけるようにして愛人やボーイフレンドを渡り歩いていく女性。心では同性が好きなのに、それを肉体的には受け入れられない女性カウンセラー…。4つの収録作にはどれも神父が登場し、女性たちの痛みや罪悪感とキリスト教の教えが響き合う。島本さんは10年近く前から、本を読んだり長崎の教会を訪ね歩いたりしてキリスト教を学んできた。

 「傷ついている若い女性に限って、自分を責めている印象を受ける。誰かに許してほしい、受け入れてほしい、と心の底から願いながら…。それはキリスト教の信仰心と重なる所があるかもしれない」

 収録作の一つ「雪ト逃ゲル」は性的なトラウマを抱えた女性作家の話。家庭を持つ彼女もまた、夫以外の男性と体を重ねる。〈私はまた他人に言えないようなことをするのだろう。そうしなければ生きられない〉と思いながら。

 「自分の若い頃を振り返っても明らかに傷つけられながらも別れられない、という恋愛をしている若い女の子が多かった。駄目ながらくたみたいな関係性の山のどこかに自分が求めるものが埋まっている、という希望を捨てられないんですよね。それは、満たされないものを抱えた女性の永遠のジレンマかもしれない」

 そんな息苦しい「性」を生きる女性の祈りと解放が伝わるラストには、冬の夜明けのような薄光もさす。

 10代のときに純文学の賞でデビューし芥川賞候補に入ること4回。ところが平成27年、純文学からの「卒業」をツイッターで宣言し周囲を驚かせた。本書の収録作はエンターテインメント小説に贈られる直木賞の受賞作『ファーストラヴ』(平成30年)の刊行前に発表したものだ。「日本の純文学は私小説の文化が根強くて、私も書くときには内面に深く潜っていく。小説との距離を取るのが難しいという悩みがあったんです」。本書のタイトルには純文学作品に一区切りを付ける、という気持ちも込められている。

 「今までジャンルを意識的に書き分けてきたけれど一本に絞ったらどうなるだろう?って。人に言えないこと、理解されづらいけれど確かにある何か、を小説を通して書いていきたい」    (文化部 海老沢類)

     

しまもと・りお 昭和58年、東京生まれ。平成13年に「シルエット」が群像新人文学賞優秀作に。15年、『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞。30年に『ファーストラヴ』で直木賞を受けた。『ナラタージュ』など著書多数。

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