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個展「奈良原一高のスペイン-約束の旅」 人間の原点、醒めた熱狂

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「バヤ・コン・ディオス コルドバ」〈スペイン 偉大なる午後〉より 1963-64年 (c)Ikko Narahara
「バヤ・コン・ディオス コルドバ」〈スペイン 偉大なる午後〉より 1963-64年 (c)Ikko Narahara
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 戦後を代表する写真家の一人、奈良原一高(いっこう)(88)の個展「奈良原一高のスペイン-約束の旅」が、東京都世田谷区の世田谷美術館で開かれている。奈良原は「王国」「ヴェネツィアの夜」などの作品で高く評価されているが、展覧会は30代前半の「スペイン 偉大なる午後」シリーズを中心に構成された。南欧の強い光と深い闇に包まれた街や祭りに集う人々などをとらえた初期の重要作品は、若き写真家の熱狂や高揚した精神を垣間見ることができる。(渋沢和彦)

風物から刺激

 陽気に踊って祭りを楽しむ若い男女、牛とともに路地を駆け回る人々…。祭りなどを取材した「スペイン 偉大なる午後」シリーズ作品の数々は、生命力と熱気にあふれている。

 奈良原は福岡県大牟田市に生まれた。昭和31年の初個展で、厳しい環境で生きる人々を撮った「人間の土地」を発表。さらに33年、刑務所と修道院を題材に、隔絶された場所に生きる人間を見つめた「王国」を個展で発表して頭角を現した。37年、フランスのファッション雑誌からの誘いを受けて渡仏。40年に帰国するまで、フランスを拠点にドイツ、イタリアなど欧州各地をめぐった。その間、スペインへは38年と翌年、数カ月にわたって滞在している。日本に戻ると、個展「スペイン 偉大なる午後」を東京のギャラリーで開催し、44年、同名の写真集が出版された。

 同時期に写した「ヨーロッパ・静止した時間」シリーズとは趣を異にする。パリなどの風景写真はいたってクールで、どこかよそよそしい。しかし、スペインの写真は、風物から刺激を受け、人々の情熱や熱気がほとばしる。写真家の没頭ぶりが伝わってくる。

長崎への愛着

 奈良原は少年時代、判事だった父親の仕事のため各地を転々とした。3歳から6歳まで、エキゾチックな都市、長崎で過ごした。その地への愛着が、スペインへの憧れを育んだことをエッセー「約束の旅」で述懐している。スペインへの旅は原点を探る“約束の旅”だった。奈良原はすでに結婚していた夫人とともに、自ら車を運転し、名もない小さな町に立ち寄っては、シャッターを押した。朽ちかけた壁と石畳の古道、草木も育たない荒涼とした大地。そして、白い壁が続く道をつえをついて歩く老人の後ろ姿や、顔に深いシワが刻まれた老女の姿などをとらえた。

 とりわけ奈良原を魅了したのは闘牛だった。スペイン北部ナバーラ州パンプローナのサン・フェルミン祭で初めて闘牛を観戦。「約束の旅」の中で、〈生と死が鮮明に抱き合う地点はスペインの闘牛場の砂の上にしか残されていない。むしろそのような人間の原点に位するような醒(さ)めた熱狂が残されていることの方が神秘なのである〉と記している。闘牛の一連の作品は美をまとった神聖な儀式のような雰囲気を漂わせる。

 人間の生きる証しや存在を表現してきた奈良原。「ある意味でカメラを超えた奈良原一高だけが知覚した世界が埋もれている。極めてドライで自律的な写真。鑑賞者が自己洗脳し得るような写真ではなく、鑑賞者の甘えを拒絶するところを持っている」と同館の酒井忠康館長は話している。

 展覧会は1月26日まで、月曜、29日~1月3日休、一般1000円。問い合わせはハローダイヤル03・5777・8600。

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