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新書の「歴史講義」本がヒット 背景に研究の細分化

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「歴史講義」シリーズの棚を作る書店も=東京都千代田区の三省堂書店神保町本店
「歴史講義」シリーズの棚を作る書店も=東京都千代田区の三省堂書店神保町本店

 新書の歴史ジャンルに新たなトレンドが生じている。あるテーマについて、複数の研究者が分担して執筆する「歴史講義」がヒットを重ね、複数の出版社から刊行されているのだ。背景には、どんな事情があるのだろうか。(文化部 磨井慎吾)

 中公新書は8月末、山内昌之・東大名誉教授と細谷雄一・慶応大教授を編著者とした『日本近現代史講義』を刊行。2カ月あまりで4刷4万4000部を数えるヒットとなった。

 同書は明治維新から現代までの約150年間を対象に、瀧井一博・国際日本文化研究センター教授や奈良岡聰智(そうち)・京都大教授ら著名研究者14人が、日清・日露戦争から2度の世界大戦、戦後の中韓との関係など、近現代史の重要トピックを論じる。

新しい研究反映も

 同書のベースになったのは、執筆者らが平成27~30年にかけて自民党本部に置かれた「歴史を学び未来を考える本部」で行った政治家向けの講義。そのため定説を更新する鋭い内容を多々含みつつも、一般読者を意識した平易な語り口になっているのが特徴だ。

 講義の人選は、編著者2人がこれはと見込んだ研究者をまず選び、そこから具体的なテーマ設定へと進んでいったという。日本史学だけでなく、国際政治学や外国地域研究など、学際的な視点も多く盛り込まれている。「日本史の中に固まるのではなく、世界史に開かれたものにしたいという思いが強かった。入門書のつもりではあるが、新しい研究の反映など、ある程度、前提知識が必要な部分もあり、専門性とのバランスには気を配った」(担当編集者)

シリーズ総数12点

 同書が刊行にあたって意識したのが、ちくま新書の「歴史講義」シリーズだ。平成27年に発刊された第1弾の『昭和史講義』を皮切りに、昭和史に関する続編4作をはじめ異なる時代を対象にした『古代史講義』『明治史講義』『中世史講義』『平成史講義』『考古学講義』など派生シリーズが続々と誕生。現在総数12点、累計部数は約18万2000部の一大シリーズに発展した。ほとんどが重版するなどセールス面でも順調で、今後もハイペースの刊行が続くという。

 共通するのは、実績の確かな第一線の研究者が専門ごとに分担し、最新研究を踏まえて執筆していく堅実なスタイル。『昭和史講義』の場合、昭和初期の外交関係をめぐる「ワシントン条約体制と幣原外交」から、戦後の占領政策の背景を扱う「日本占領」まで、15のトピックを15人が執筆している。

 同シリーズを担当するちくま新書編集長の松田健さんは「部数自体よりも、大学のゼミで使用されるなどの知的インパクトの方が大きいのでは」と話す。出版界では従来、こうした講座ものはハードカバーで企画される場合が多いが、縮小が顕著な現在の出版市場でそのスタイルに固執すると、少部数で高額という入門書としては本末転倒なものになってしまいがちなため、新書というある程度の部数が刷られるパッケージで出すことに意義があるという。

一人で通史執筆困難

 分担執筆スタイルは、研究者側にとってもメリットがある。『昭和史講義』シリーズの編者を務める筒井清忠・帝京大文学部長は企画の背景に「読書界で昭和史への関心が高まっている中で、誤りの多い昭和史本がベストセラーになり、高い評価を受けている状況への危惧があった」と明かす。「一方で歴史学者の側も研究の進展に伴って細分化が進み、同じ昭和史でも少し時代や対象が違うと研究者同士でもお互いの最先端のことが分からなくなっている」

 一人で通史を書くのが難しくなった時代、どうすれば細分化した最新研究を反映させつつ、一つの時代の全体像を描き出せるか。研究者が個々の専門分野を分担執筆するスタイルは、そうした状況に対応する妙手でもあるのだという。

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