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歴史的決勝前に“鬼ごっこ” 囲碁の上野女流棋聖が秘策明かす

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日本記者クラブで会見した上野愛咲美女流棋聖は「笑門来福」と揮ごうした。左は師匠の藤沢一就八段
日本記者クラブで会見した上野愛咲美女流棋聖は「笑門来福」と揮ごうした。左は師匠の藤沢一就八段

 全棋士が参加できる囲碁の一般棋戦「第28期竜星戦」で女流棋士として初めて準優勝した上野愛咲美(あさみ)女流棋聖(17)が11日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で会見した。50周年を迎える同クラブでの史上最年少ゲストは、天然トークで会場の笑いを誘う一方、歴史的決勝の舞台裏を明かした。

(文化部 伊藤洋一)

 最年少会見

 これまで囲碁・将棋界では羽生善治九段(49)や井山裕太四冠(30)らが招かれているが、女流棋士では初めてとのこと。今年11月に創設50年となる同クラブで、史上最年少のゲストスピーカーだった。

 プロ4年目の上野女流棋聖は今期の竜星戦で、予選に当たるブロックトーナメントを4勝1敗で12人中2位となり、決勝トーナメント(16人)に進出した。1回戦でタイトル獲得15期の高尾紳路九段(42)を破ると、2回戦では七大タイトル保持者の村川大介十段(28)に勝利。さらに準決勝では、天元戦五番勝負で井山四冠に挑戦中の許家元(きょ・かげん)八段(21)にも快勝した。

 全棋士が参加できる一般棋戦で、女性が4強以上に進んだのは初の快挙にもかかわらず、「運良く決勝トーナメントに進め満足していた。ふだんは(勝ち進まないと)打つのが難しい先生方とも対局でき、また運良く決勝まで進むことができ、うれしかった」と振り返った上野女流棋聖。その勝因を問われ「運が本当に良かった」と繰り返して会場の報道陣を笑わせたが、しっかり対策を取っていたのだ。

対局前に鬼ごっこ

 CSなどで放映される竜星戦は従来、録画した対局を後日、放映している。主催の囲碁・将棋チャンネルは、上野女流棋聖の活躍があったため急遽(きゅうきょ)、準決勝(9月14日)と決勝(同23日)を午後8時から生放送した。通常は、頭がさえているとされる午前や午後の早い段階に始まるため、“ナイター対局”は極めて異例だった。

 そこで上野女流棋聖は妹の梨紗初段(13)を“スパーリングパートナー”に指名し、対局前に鬼ごっこをしていたという。「運動しないと、頭がまわらないと思ったので…」

 実は準決勝が午後8時からの対局と決まった際、師匠の藤沢一就(かずなり)八段(55)が一計を案じ、門下の本木克弥八段(24)と午後8時からの練習対局を2度、打たせていた。そこで、うまく打てなかったため、一力遼八段(22)との決勝には、体を動かしてから臨んだわけだ。鬼ごっこをすれば、疲れそうなものだが、そこは気にしなかったのが上野流だ。

ハンマー持った女子高生

 会見には藤沢八段も出席。「やる気になったときの集中力はすごい。話しかけても気づかないほど」としたあと、「相手の石が取れそうだと、襲いかかる。ちまたでは“女子高生がニコニコしながらハンマーを持って追いかけてくる”と言われているそう」と棋風を紹介すると、上野女流棋聖は「とてもうれしい。すごいほめ言葉」と素直に喜んだ。

 アマ六段の祖父に「頭がよくなるから」と勧められ、5歳で囲碁を始めた上野女流棋聖。小学2年で、プロを目指す日本棋院の院生になったが、大半が上級生だったこともあり「強い人たちに負かされてばかり。少しずつ上にいけて、あと1つ勝てば入段できるところで2回逃し、プロになれない人間なんだと思っていた」と振り返った。それでも「囲碁以外に得意なものが一つもない。やるしかない。他の進路を考えたことはあるかもしれないけど、迷ったことはない」ときっぱり。7回目の挑戦でプロ入りをつかんだ。

世界を見据え

 記者クラブの会見では、色紙への揮毫(きごう)が恒例。全英女子オープンで優勝、日本勢では42年ぶりにメジャー大会を制し、8月6日に同クラブで会見した女子プロゴルファー、渋野日向子選手(20)は、書道有段者の腕前で「笑顔」と記していた。

 一方、この日の上野女流棋聖は「笑門来福」。その理由がまた彼女らしい。

 「スマートフォンで楽しい四字熟語を検索していたら出てきて、一発でコレいいなと。それ以来(求められたら)書くようにしています。いつも、よく笑っちゃうんです。悲しんでいるより、笑っているほうが運が良くなるかな、と。この言葉好きです」

 現在、5つある女流タイトルのうち4つを保持する藤沢里菜女流本因坊(21)に挑む女流本因坊戦五番勝負に挑戦中。来年1月には3連覇がかかる女流棋聖戦三番勝負もあるが「自信ない」と謙遜。一方で、「韓国の崔精(チェジョン)九段(23)や中国の於之瑩(オシエイ)六段(21)は男性棋士にも勝っている。2人に女流の国際棋戦で勝つことができれば」と意欲をみせた。

 対局時も、この日の会見時も、緊張するようなそぶりはまったくなし。「打つ前は緊張するけど、碁盤を前にすると緊張しなくなる。囲碁棋士なので、碁盤をみると安心する」。そう矜持(きょうじ)をのぞかせたスーパー17歳は世界を見据えた。

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