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「臨床美術」浸透へ情熱 臨床美術士の中谷真理さん

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臨床美術のプログラムを基に絵の指導にあたる中谷真理さん(中央)=西宮市鳴尾町(荒木利宏撮影)
臨床美術のプログラムを基に絵の指導にあたる中谷真理さん(中央)=西宮市鳴尾町(荒木利宏撮影)

 絵を描くことで脳の機能を活性化させ、認知症の発症予防や進行抑止につなげる「臨床美術」。近年は認知症予防にとどまらず、子供の感性を引き出したり、心をリフレッシュさせたりする効用も指摘され、さまざまな職種や世代の人々に有効な芸術療法として注目されている。兵庫県西宮市の特別養護老人ホームを中心に臨床美術に基づくプログラムを実践する臨床美術士、中谷真理さん(48)は「臨床美術をもっと多くの人に知ってもらい、仲間を増やしたい」と意気込む。(荒木利宏)

 「色の重ね方がすてきで絵に表情が出ていますね」

 西宮市内の銭湯のロビー。認知症予防のための講座に集まった70~80代の女性5人が描き上げた絵を見て中谷さんが感想を語る。

 シンプルな曲線が描かれただけの真っ白な紙に、5人が色鉛筆で思い思いに色や模様を描き加え、カラフルなものから落ち着いた色合いのものまで、さまざまな絵ができ上がっていく。参加者からは「絵を描いているときはすごく集中できて何も耳に入らなかった」との声も聞かれた。

 臨床美術士は、NPO法人「日本臨床美術協会」が認定する民間資格。1~5級があり、同協会によると昨年11月末現在、国内外で約2300人の臨床美術士がいるという。しかし、資格を取得しても臨床美術士として働く人は少なく、裾野の拡大が課題になっている。

 中谷さんは旧一宮町(現宍粟市)出身。高校時代はデザイン科に在籍し、絵を学んでいた。大学図書館で事務の仕事をしていた約6年前に臨床美術の存在を知って関心を持ち、資格取得のため勉強を始めた。

 「一般的にリンゴを描くとすれば、見たままにリンゴの輪郭だけを表現しても絵になる。でも、臨床美術の場合はリンゴの実物に触れながらイメージを育て、まず中心の種の部分を描く。そして、そこから外側の皮の部分へと色を塗り重ねていく」

 視覚だけで処理せず、手触りやイメージなど五感を使って色や形を自由に表現する。本物そっくりにうまく描くことしか頭になかった中谷さんにとって、この考え方は新鮮だった。

 個人の感性を重視する臨床美術では、否定的な言葉は一切使わない。「年を重ねるにつれて、ほめられるという経験は少なくなりがち。この仕事は、一人一人が楽しく個性を表現できる場をつくること」と中谷さんは語る。

 平成27年に5級、28年に4級の資格を得た中谷さんは昨年4月、社会福祉法人「円勝会」(たつの市)に採用され、法人所属の臨床美術士として働き始めた。月の半分程度は西宮市内の福祉施設や銭湯などで臨床美術のプログラムを実践する多忙な日々を送る。

 「関西では、臨床美術の知名度が関東に比べてまだまだ十分ではないと感じる」と話す中谷さん。誰もが気軽に臨床美術に触れることができる環境をつくることが、今の目標だ。

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