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【本ナビ+1】「天皇制とは何か」を改めて

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三井住友信託銀行元副社長・大塚明生さん(荻窪佳撮影)
三井住友信託銀行元副社長・大塚明生さん(荻窪佳撮影)

 □三井住友信託銀行元副社長・大塚明生

 ■『明治天皇の世界史 六人の皇帝たちの十九世紀』倉山満著(PHP新書・920円+税)

 フランス革命とナポレオン戦争で失われたそれまでのヨーロッパ秩序(王政)。その復活を目指した1815年のウィーン会議から第一次世界大戦勃発の1914年までは、「長い19世紀」とも呼ばれ「皇帝たちの時代」でもあった。当時、多くの君主国が存在したが、大英帝国、ハプスブルク帝国、ドイツ帝国、ロシア帝国、清朝に日本を含めた6カ国のうち、君主国として生き残ったのは日本と英国だけだ。

 明治天皇とヴィクトリア女王は立憲君主に徹したが、他の君主は親政(独裁)を行ったがゆえに滅びたのだと著者は指摘する。ただ、立憲君主制ならうまくいくというものでもない。立憲君主は警告、激励する権利、相談を受ける権利(被諮問権)を適切に行使することで政治に影響力を及ぼす、つまり君臨すれども統治せずであり、本書では立憲君主としての明治天皇を多くの事例から描いている。

 一方、独ヴィルヘルム2世などは、親政を行う地位にありながら、決められたことを行う官僚の心性を持つ無能な働き者だったからドイツ帝国は滅びたのだと著者は言う。

 長い19世紀における君主のさまざまな振る舞いを紹介する本書では、教科書的視点に止(とど)まらない分析が多く含まれている。たとえば、日清戦争後の三国干渉は露仏同盟による両国の挟撃を恐れたヴィルヘルム2世が、ロシアの目を東方に向けさせようとした-といった君主の資質からみた歴史的出来事の分析である。

 本書の最後に「なぜ日本に天皇が必要なのか。日本が日本であるためだ」「日本とは皇室と国民の絆のことなのだから」とあるが、終身在位制であった明治、大正、昭和とは異なる形で平成が終わろうとする今、天皇制とは何かを改めて考えさせられる。

                   

 ■『天皇の近代 明治150年・平成30年』御厨貴編著(千倉書房・ 3200円+税)

 近代立憲国家の中での天皇の位置づけには受動性(不親政)と能動性(親政)があるといわれる。本書はその点に関して10人の研究者が興味深いテーマを独自の視点から1章ずつ著している。

 第9章「戦中期の天皇裕仁と皇太后節子」では、皇太后の能動性が垣間見えて興味深い。編著者が言うように、象徴天皇制の範疇(はんちゅう)ではあるが、平成の譲位は天皇の能動化なのだと感じた。

                   

【プロフィル】大塚明生(おおつか・あきお) 昭和28年生まれ。京大法学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。平成23~27年、副社長。現職はエグゼクティブアドバイザー。『逆境のリーダー』など著書多数。

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