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【金曜討論】〈教室のエアコン設置〉「生きる力育むには不要」山田宏氏 「教室での集中力アップ」松原斎樹氏

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【金曜討論】〈教室のエアコン設置〉「生きる力育むには不要」山田宏氏 「教室での集中力アップ」松原斎樹氏

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 教室にエアコンを設置する公立小・中学校が増える中、千葉市議会は6月、エアコン設置を求める保護者らの請願を不採択とした。この決定に市民からは「子供には忍耐力が必要」「熱中症が心配」と賛否の声が上がる。夏休みも後半になり、あと半月で学校が始まるが、教室にエアコンは必要か否か、東京都杉並区長時代に都内23区で唯一設置を認めなかった山田宏衆議院議員と、建築環境工学が専門の松原斎樹・京都府立大教授に聞いた。(川瀬弘至、篠原那美)

 ≪山田宏氏≫

 --杉並区長だった平成11~22年、どうして区内の小中学校にエアコンを導入しなかったのか

 「理由は2つある。そもそも小中学校は、7月下旬から8月末まで夏休みだ。9月も残暑は厳しいが、教室にエアコンが必要なほどの猛暑日は、年間で数えるくらいだろう。わずかな日数のために貴重な税金を優先的に使うべきではないと判断した。もちろん子供たちの健康は大切だ。しかしエアコンに頼らなくても、猛暑日が予想される日は休校にして土曜に振り替え授業を行うなど、いくらでも工夫はできる」

 --もうひとつの理由は

 「教育とは、子供たちの生きる力を育むことだ。科学の進歩は素晴らしいが、それに頼っているばかりでは、生きる力は育めない。私は区長時代、エアコンを導入しない代わりに、校庭の芝生化や屋上の緑化など、エコスクールを徹底して進めてきた。そうした工夫の中で、子供たちは暑さをしのぐにはどうすればいいかを自然に学んでいく。生きる力を育むとは、そういうことではないか」

 --杉並区は現在、小中学校にエアコンを導入している

 「私が区長を辞職した後、新しい区長の方針で平成22年度から順次導入されるようになった。賛否両論あるだろうが、私自身は今でも、小中学校にエアコンは不要だと思っている。熱中症を心配する声もあるが、学校現場で、子供たちに水分を十分とらせるなど対策をしっかり行えば、エアコンなしでも予防は可能だ」

 --授業への集中力が低下するという指摘もある

 「確かに快適な環境のほうが、集中力は高まるだろう。しかし社会に出れば、不快な環境でも集中しなければならない場面がいくらでもある。生きる上で必要な耐性を高めるため、あえて不快な環境をつくることも、ときには必要ではないだろうか。もっとも、本当に暑い日は通常の勉強はせず、熱中症対策について学んだり、温暖化について考えたりする授業に切り替えてもいい。暑い日は暑い日なりに、寒い日は寒い日なりに、自然を生きた教材として活用することも大切である」

 --ほとんどの屋内施設にエアコンが設置されている中、学校だけ設置されていないのはどうか

 「むしろ今の時代、せめて学校ぐらいは、子供たちにエアコンなしで過ごさせたいと考えている。これからの日本の教育は、世界を舞台に活躍する人材をどれだけ育成できるかが鍵になる。その世界に、ボタンひとつで涼しくなるような場所が、どれだけあるだろうか。『暑いから仕事ができません』『エアコンのないところには行きません』というような日本人を育ててはならない」

 ≪松原斎樹氏≫

 --学校にエアコンが必要な理由は

 「今の学校建築は屋根や壁の断熱や日よけが十分でなく、風通しも必ずしもよいとはいえない。こうした貧弱な建物のままでは、文部科学省が学校環境衛生基準で望ましいとしている30度以下の学習環境を実現することは難しい。ヒートアイランド現象や温暖化が進んでおり、昔より暑いのは事実。冷房なしで適温にするのは不可能であり、『昔はなかったから、なくて当然』という主張には無理がある」

 --校舎の緑化など、エアコン以外で温度を下げる方法もあるのでは

 「緑化だけで室温を28度にするのは無理だろう。緑化か冷房か、どちらかを選ぶのではなく、緑化をしたり、日よけをしたりするとともに、冷房もある程度は使わないと、適温にはならない。多くの施設が夏場には冷房を使用しており、社会全体からすると学校だけが著しく取り残されているのではないか。子供は大人に比べ、発汗など体温調節能力が未成熟なので、健康面で気を使ってあげなければならない」

 --エアコンを導入すると、どういう効果が期待できるのか

 「京都府長岡京市がPFI方式(公共施設の建設や維持管理、運営などに民間資金、経営能力、技術的能力を活用する方法)を使って、平成20年に全ての公立小中学校にエアコンを一斉導入した。私たちの研究室では、導入後の効果測定の研究を行ってきたが、教員や児童生徒へのアンケートの結果、導入前と比べて『集中度が増した』『授業への反応がよくなった』『休憩時間からの切り替えが早くなった』など肯定的な回答が多かった」

 --財政難でエアコン導入が困難な自治体もあるが

 「自治体で学校にエアコンを一斉導入するには、莫大(ばくだい)な財源が必要となり単年度予算では難しい。しかしPFI方式にすれば、民間資金で一斉導入ができる。自治体はその後、一定の期間をかけて費用を償還していけばいい。長岡京市の場合、契約期間中の機器の性能保証や、適正な使用法を学校に助言する業務を事業者に課しており、事業者は故障しないようにメンテナンスに気を使うため、結果的に省エネにもつながる。ただ、PFI方式だと事業者選定に数カ月はかかるので、早期導入がしにくい面もある」

 --エアコンを導入すると子供の忍耐力が落ちるという声もある

 「長岡京市での調査でも『少しの暑さでもエアコンの使用を求めるようになり、依存心を感じる』という意見が若干あった。エアコンの使用で体温調節能力や、精神的な忍耐力が落ちるという懸念については、子供たち自身にそのことの是非や避ける方法などを授業で話し合わせることもできるし、それこそが教育ではないか」

【プロフィル】山田宏

 やまだ・ひろし 昭和33年、東京都生まれ。56歳。京都大学卒業後、松下政経塾に入塾。平成11~22年、東京都杉並区長。24年の衆院選に日本維新の会公認で出馬し当選、26年8月から次世代の党幹事長。

【プロフィル】松原斎樹

 まつばら・なおき 昭和30年、岐阜県生まれ。59歳。京都大学大学院博士後期課程修了。京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授。日本生気象学会幹事、人間-生活環境系学会副会長など。

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