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【科学】超深海の潜航能力と高い居住性 次世代の有人潜水船「しんかい12000」開発本格化、資源探査レースへ

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【科学】超深海の潜航能力と高い居住性 次世代の有人潜水船「しんかい12000」開発本格化、資源探査レースへ

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 ■超深海の資源探査に挑む

 世界最深の1万2000メートルまで潜航できる次世代の有人潜水船「しんかい12000」の開発構想が本格的に動き出す。海洋資源の宝庫である深海底では近年、各国による資源探査の競争が激化しており、海洋研究開発機構は2023年ごろの運用開始を目指している。(伊藤壽一郎)

 ◆小型でも快適

 「世界最深部まで潜れる性能と高い居住性を実現し、より多くの研究者が長時間滞在できるようにしたい」。文部科学省とともに次世代有人潜水船の構想を検討している海洋機構の磯崎芳男海洋工学センター長は、こう話す。

 世界で最も深い海底は、小笠原諸島(東京都)の南東に延びるマリアナ海溝のチャレンジャー海淵(かいえん)(水深1万911メートル)。海洋機構の有人潜水船「しんかい6500」(潜航深度6500メートル)の2倍近い能力を実現すれば、前人未到の超深海が見えてくる。

 有人潜水船の心臓部は人が乗り込む部分を取り囲む球状の「圧力殻」だ。次世代船はこの内径を現行の2メートルより小さくして、高い水圧に耐えるようにする。海中では水深が10メートル増すごとに水圧が1気圧ずつ増える。水深1万2千メートルなら1201気圧で、1平方センチ当たり約1・2トンもの力がかかるため、圧力殻は少しでも小さい方がいい。

 一方、機器類を小型化することで船内の居住性は向上させる。しんかい6500は操縦者2人と研究者1人が搭乗するのに対し、次世代船は同じ3人乗りだが操縦者を1人に削減し、研究者が2人乗れるようにする。

 ◆操縦室は透明に?

 現在の圧力殻はチタン合金製だが、次世代船では世界初となる強化ガラス製などを検討している。現行船は小さな窓から外をのぞく。操縦室が透明なガラス張りになれば視界が飛躍的に広がり、操作や調査の効率アップは確実だ。

 これまで1つだった圧力殻を増やす可能性もある。1つを操縦と観察用、もう1つを休憩用にして連結すれば、居住性が大きく改善する。

 現在の船内は非常に狭く、搭乗員がぎゅうぎゅう詰めの状態で、1回の潜航時間が8時間にとどまる一因にもなっている。圧力殻を2つにすれば、24時間以上の潜航も可能になる。短時間の潜航なら、休憩用のスペースに、さらに研究者2人を搭乗させて5人乗りにすることもできる。圧力殻を増やしても、全長は現行より短くするという。

 生物や岩石などの試料を採取するロボットアームは、触れたときの感触や温度が分かる新機能を検討。さらに超高精度のカメラや高性能の燃料電池、浮力材など多くの新技術が盛り込まれる見込みだ。

 ◆世界一奪還へ

 深海底の調査は無人探査機でも可能だ。日本海溝で東日本大震災の地震活動による亀裂が見つかり、南西諸島海溝では大量の有用金属を秘めた熱水鉱床の存在が判明。小笠原諸島の南鳥島付近ではレアアース(希土類)を大量に含む泥が見つかるなど、既に多くの成果を挙げている。

 にもかかわらず、なぜ有人調査が必要なのか。磯崎氏は「肉眼で直接観察することで、さらに研究が深まるからだ」と強調する。

 次世代船を開発する背景には国際競争の激化もある。水深6千メートル以上の超深海の有人調査は長く日本の独壇場だったが、資源探査のため各国が続々と参入。潜航深度6千メートルの有人船は既にフランス、ロシアが開発済みで、米国も現行船を6500メートルに改造して試験中だ。2012年には7千メートルの中国の「蛟竜(こうりゅう)」が登場し、日本は世界一の座を明け渡した。

 危機感を抱いた文科省は昨年、次世代船を優先度の高い国家基幹技術と位置付けた。今年3月には日本学術会議が建造費を300億円と試算し、2023年の運用開始を政府に提言したが、予算措置はまだ固まっていない。

 しんかい6500が1989年に完成してから、すでに25年。このまま開発の空白期間が続けば、せっかく日本が蓄積してきたノウハウが風化してしまう。磯崎氏は「蓄積を引き継ぐ次世代有人潜水船の開発を急がなくてはならない」と訴えている。

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