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【貳阡貳拾年 第1部・111人の予想図(6)下】iPS細胞は世界トップ維持も「五輪後」見据えた構想力を

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 宇宙とともに今後の科学の鍵を握る生命分野。京都大の山中伸弥教授(51)が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)による夢の再生医療の実現に期待が高まる。山中さんは「iPS細胞を使った再生医療は日本が世界の牽引(けんいん)役になっている。安全性を確認する必要があり、一気に普及というわけにはいかないが、20年でも日本が世界のトップを走っているのは間違いない」と断言する。

 iPS細胞を使った再生医療は昨年、加齢黄斑変性という目の病気を対象に、世界初の臨床研究が日本で始まった。山中さんは20年をこう展望する。

 「今年中に臨床研究の移植が始まる加齢黄斑変性は、治験の動きが出てくるだろう。さらにパーキンソン病や脊髄損傷、心不全に対する心筋の移植、再生不良性貧血に対する血小板輸血などの臨床研究が始まっているのではないか」

 ただ、iPS細胞を薬の開発に生かす創薬については「欧米には臨床研究に入っている薬が必ずあると思うが、日本の将来は見えない状態。何とかしなければ」と危機感を抱く。

がん治療急速進化

 国民の3人に1人が死亡するがん。ゲノム(全遺伝情報)や遺伝子を活用した新たな治療戦略が待たれる。東大の間野博行教授(54)は「20年までに安く網羅的な遺伝子診断が可能になり、がんの治療が急速に進む。原因となる遺伝子の発見で有効な薬が増える」とみる。

 地震の予知も社会的な関心が大きいが、現代科学は東日本大震災の巨大地震を予測できなかった。予知の可能性があるとされてきた東海地震でも科学的な根拠が揺らいでいる。

 地震予知連絡会の平原和朗会長(61)は「20年に予知を実現するのは困難だ」と認める。ただ、手掛かりが全くないわけではないという。

 「大地震との関連が注目されているプレート(岩板)境界の『ゆっくり滑り』という現象について、さらなる知見が得られているはずだ。今後の予知は過去の延長ではなく、新たな切り口を開拓すべきだ。予知を諦めてはいけない」

脳でロボット操作

 脳の情報を読み取り、機械やロボットなどを遠隔操作で思い通りに動かす「ブレーン・マシン・インターフェース」(BMI)。自分で意思表示できない難病患者や、体が不自由な人の生活を支援する技術として研究が進んでいる。

 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所の川人光男所長(60)は「20年には脳卒中などのリハビリテーション分野でBMIが普及する」とみる。

 脳の活動パターンや意識が生じる仕組みの研究が進み、新たな使い道も出てくるという。

 「ゲーム感覚で自分の脳を操作する時代が始まる。例えば存在しないものがリアルに見える幻覚を作り出したり、脳とパソコン、携帯電話をつないで気分を自在にコントロールしたりするようになる」

 世界初のサイボーグ型ロボットスーツ「HAL(ハル)」。体を動かそうとするときの脳の電気信号をキャッチし、筋肉の動きをモーターで補強して歩行を助ける装置だ。開発したサイバーダインの山海嘉之最高経営責任者(55)は「健康的になれる技術として家庭で使われていく」と予想する。

 ロボットの用途は「人のためではない技術の開拓が進み、世界でロボット化された軍事技術が強化される」と懸念も示す。

基礎軽視で衰退も

 日本が輝きを失わないためには、何が必要なのか。日本人初のノーベル医学・生理学賞を受けた米マサチューセッツ工科大の利根川進教授(74)は、近年の成果主義を批判する。

 「ペニシリンやDNAの二重らせん構造の発見など基礎研究が後の医療に大きく貢献した例は数多い。基礎を軽視すれば応用も10年で廃れる。『税金を使うのだから早く社会に役立つことをやれ』というのは間違っている」

 東大カブリ数物連携宇宙研究機構長の村山さんは、日本人の資質を思い出すことを促す。「日本人は明治以降から西洋文明を導入したのに、短期間でノーベル賞を出している。それを担う次世代を育てる点が今はやや不安だ」

 京都大の松本紘総長(71)は東京五輪を未来の日本の在り方を考える機会にすべきだと呼びかける。「(五輪の)次の10年に向けて投資できるような6年にしないといけない。次の30年間をどうするかを各分野で考えなければならない」

 東京五輪よりさらに先の日本を見据えた構想力こそが、これからの6年間に求められそうだ。=第1部おわり

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