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ライフスタイルを激変させたiPhone「破壊的イノベーション」の恐ろしさ

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ライフスタイルを激変させたiPhone「破壊的イノベーション」の恐ろしさ

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 iPhoneは携帯電話業界だけを破壊したのではない。音楽やカメラ、PCの各業界を破壊しつくし、そして人々のライフスタイルを激変させた。「破壊的イノベーション」の恐ろしさとは。

文: 三国大洋(taiyomikuni.com

ニュースのポイント

 「破壊的イノベーション(disruption)」という言葉がビジネス界に定着してから10年ほど経つ。流行り言葉につきものの陳腐化や独り歩きも感じてしまうが、その本当の怖さは必ず覚えておきたい。

意図せず破壊してしまうイノベーション

 携帯電話やスマートフォンのメーカーには、もともと新聞(紙媒体)に罰を与えるつもりなどなかった。キヤノンやニコン(のようなカメラメーカー)を苦しめようというつもりもなかった。彼らが携帯端末を作ったのは、JVC(ビクター)やパイオニアを苦しめるためでもなく、音楽や写真、印刷関連の業界で活動していた多くのメーカーを潰すためでもなかった。彼ら携帯端末メーカーは、ただただ、「もっと良い携帯電話機が作りたかった」だけなのだ。

 これは、フィンランド人のITアナリスト、ホレス・デディウが今月初めにブログに書いたコメントだ。彼はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で、『イノベーションのジレンマ』で知られるクレイトン・クリステンセンの教えを受けており、いわば彼の弟子筋にあたる。このブログの投稿は、広告市場の分析をテーマにしながらも、既存の参加者にとって“想定外の脅威”ともいえる存在の怖さを描いた部分だ。

 引用箇所に含まれる具体的な事例は、iPhoneやAndroid搭載スマートフォンが普及した今、何を今更と思われるかもしれない。スマートフォンの普及に影響を受けた分野、中でもハードウェア企業は、とっくの昔に生き残り可能なオプションを模索、選択しているはずだから。もちろん“降りる”=市場から手を引く、という選択肢も含めてである。

 iPhoneの登場から6?7年、さなざまな産業分野で大きな変化が生じた。iPhoneは「単なる携帯電話」ではなく、「携帯機能も含んだ小型コンピューター」である。だから、カメラメーカーやオーディオメーカーだけでなく、パソコンメーカー、引いてはパソコンを使って仕事をする人々のワークスタイルとライフスタイルの両方にも大きな影響を与えたのだ。

 そうやって起こるような変化は、これからも他の分野で繰り返されるだろう。筆者が「破壊的イノベーション」という言葉を見聞きするたびに考えるのは、そんな「不意打ち」や「巻き添え」の恐ろしさである。

 

 

「破壊的イノベーション」なんてあるの?

 6月半ばに「クリステンセンの言ってることって、実は間違いなんじゃない?」と論争を仕掛けたジル・ルポアのエッセイが米高級誌『The New Yorker』に掲載され、ちょっとした話題になっていた。内容の方は、筆者などは重箱の隅をつつくような論考だと考えたが、テーマの選び方や批判の矛先が斬新だったことと、「破壊的イノベーションは、パニック、不安感、そして脆弱な証拠の上に築かれた変化についての理論だ」といった煽動的なレーズがあったため、大きなな反響があったようだ。この論考が載ったウェブページにアクセスすると、執筆時点でFacebookの「share」が約1万7600もついている。こうした堅い話の中ではなかなかの数字であろう。

 「重箱の隅をつつくような論考」と書いたが、そう思った理由の1つは「ハードディスク(HDD)市場で現在でも生き残っている大手2社、ウェスタン・デジタルとシーゲイトは、いずれも1980年代に市場をリードしていた会社」「インクリメンタルな改良(改良の積み重ね)が得意だったところが、結果的にはディスクドライブ市場で勝利を手にしたように見える」などと著者がどこか得意げに記しているところだ。HDDに限らず、記憶媒体分野全体での価値の在り処が、フラッシュメモリーのような半導体ベースの製品や、クラウドベースのサービスへと移ってしまったことに目が向いていないのだ。HDDのような記憶媒体は完全にコモディティ化していること、それに伴って収益性が悪化して合従連衡が進んだ結果、現在の大手2社の体制に落ち着いていることも忘れないでおきたい。

 そもそも、次の点だけを指摘したら、それでおしまいのような気もする。それは、HDD分野は多額の製造設備が必要なのだから参入コストが高い、そこにコモディティ化の流れが加わった段階で、今さらHDD分野に参入して「破壊的イノベーション」を仕掛けようという間抜けな新興企業はいなくなったのだ。HDDメーカーの競合は、ある時点から半導体メモリーメーカーになっていた、ということである。

 

 

破壊的イノベーションは起きる、いつか、必ず

 話を戻すと、破壊的イノベーションを受ける側にしてみると、問題は「想定外の脅威」や「未だ見えてこない潜在的ライバル」をどう察知するのか、という点に行き着く。これは理屈の上では不可能なことのように思えるが、「破壊的イノベーションというアイディアは間違い」などとは決して思わない方がいい。冒頭のデディウのブログが、まさに起こったことを端的に示しているのだから。 

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