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NHK「マンゴーの樹の下で~ルソン島、戦火の約束~」

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「伝え続けることが大事」と語る女優の岸惠子 =東京都渋谷区(佐藤徳昭撮影)
「伝え続けることが大事」と語る女優の岸惠子 =東京都渋谷区(佐藤徳昭撮影)
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□主演・岸惠子、伝え続ける覚悟

■戦争、遠い日の話にしない

 終戦からまもなく74年が経過する。戦争体験者の高齢化は進み、身近な人から当時の様子を聞くことはますます難しくなってきている。NHK特集ドラマ「マンゴーの樹の下で~ルソン島、戦火の約束~」(総合テレビ、8日午後10時~)では、凄惨(せいさん)を極めたフィリピン攻防の激戦の中、逃避行を余儀なくされた民間女性らの手記をもとに、苛烈な時代をひたむきに生き抜いた人々の人生を描く。(石井那納子)

◆人は忘れてしまう

 物語は日本の占領下にあったフィリピン・マニラにタイピストとして赴任した女性と、現地の日系2世の女性との友情を軸に進む。穏やかな生活は米軍のフィリピン進攻にともない一変。女性たちも戦火に巻き込まれていく。

 「戦争をテーマにしたテレビ番組はほとんどなくなってしまったでしょう。人は忘れてしまう生き物だから、伝え続けていかないといけないと思うのよ」

 ドラマ、映画を通じて12年ぶりに主演を務める女優の岸惠子(86)は、出演を決意した心境をこう語る。

 自身も昭和20年5月の横浜大空襲に遭遇した。木造建物が密集していた横浜市中心地域が、米軍機から焼夷弾攻撃にあった。

 逃げまどう途中、防空頭巾が燃えている女性を助けようと揺さぶると、支えを失った身体が岸に覆いかぶさってきた。女性はすでに息絶えていた。

 近くの防空壕(ごう)では、土砂崩れと爆風で多くの人が亡くなった。「地獄ってこういうものかしらという感じだったわ。水死した人から焼け焦げた人、本当にいろいろ見ました。あの日ね、私は子供をやめたの」

 戦後、女優活動を始めてからもチェコスロバキア(当時)の「プラハの春」(1968年)やフランスの「五月革命」(同年)など、実際に争いが起きた現場に足を運んできた。「今の日本はまれに平和な時が続いているけれど、世界史を振り返ると、これからもいさかいはやまないでしょう。私のようにその歴史を見てしまった人は、見なかったことには戻れないのよ」。岸の言葉には、経験者として戦争を後世に伝える覚悟が込められている。

◆戦中・戦後・現在

 長年、終戦の日に関連したドラマを撮り続けてきたNHKだが、どうやって幅広い世代に戦争への関心を持ってもらうかが課題となっているという。

 制作統括を務めるNHKエンタープライズの佐野元彦エグゼクティブ・プロデューサーは、「ふとしたきっかけで記憶がよみがえったり、孫に語って聞かせたりする今までのドラマのスタイルでは、視聴者に届かない」と話す。

 作中では、岸と女優の清原果耶(17)がリレーでヒロイン、凛子を演じる。異国での新生活に胸を高鳴らせる若き日の姿や、親しい人との別離など老いの寂しさも描かれ、それぞれのパートだけでも独立した物語として成立する構成になっている。佐野氏は「戦中の悲惨な体験、苦しい戦後、穏やかな時間を手にした現在が混ざり合ってひとりの人間の人生になっていることに気付いてもらわなければ、戦争は遠い日の話、ひとごとのまま終わってしまう」と話す。

 戦中パートの過酷な描写は、生存者の証言と残された手記から掘り起こした。フィリピンでの調査では、日系2世として生まれ育った男性から話を聞く機会にも恵まれた。フィリピン人から敵として扱われ、旧日本軍からも時にスパイと疑われた日系人たちの苦悩は、ヒロインと苦楽を分かち合った友人、綾役に投影したという。

 佐野氏は「見てもらうためのあらゆる手を尽くした。あの日のできごとが、今の平和につながっていることに気付いてほしい」と話している。

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