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歌舞伎俳優、中村獅童 新作に向き合い古典を知る 京都・南座で八月南座超歌舞伎

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8月に京都・南座でおこなわれる「超歌舞伎」に主演する中村獅童(歌舞伎俳優)=20日、大阪市中央区(寺口純平撮影)
8月に京都・南座でおこなわれる「超歌舞伎」に主演する中村獅童(歌舞伎俳優)=20日、大阪市中央区(寺口純平撮影)

 上目遣いの鋭い目つきに不思議な色気が宿る。

 歌舞伎では江戸時代の錦絵から抜け出たような古風な魅力を醸し出し、映像ではナイーブな感性が光る。また、あるときは、第一線のアーティストとして、ファッション誌「ヴォーグ」にも取り上げられる。

 その活動は多面体。いままでになかったタイプの歌舞伎俳優として、21世紀の最前線を疾走する。

 「伝統を保ちつつ、革新を追求する。しかも、獅童らしく。それが僕の生き方ですね」。ちょっとはにかんだ笑顔を見せた。

 歌舞伎の名門、萬屋(よろずや)に生まれた。本来なら順風満帆のはずが、父、初代獅童が若い頃、歌舞伎俳優を廃業したため厳しい立場に立った。というのも歌舞伎の世界は御曹司であっても後ろ盾をなくすと大役に恵まれないことが多いからだ。

 「それなら自分でチャンスをつかみ取ろう」。それが、映画「ピンポン」(平成4年)のドラゴン役だった。オーディションで大役を射止め、スキンヘッドにして臨んだ強烈なキャラクターで一躍、その名を知らしめた。当初は、獅童を歌舞伎俳優だと知らない人も多かったという。

 独特の個性は歌舞伎でもなくてはならない存在として、主役、大役を演じるようになっていく。古典はもちろん新作歌舞伎でも思い切った役作りで舞台を盛り上げる。

 「新しいものを創造するとき、僕のやり方は破天荒に見えるかもしれない。でも、僕が追求しているのはつねに古典です。そして、新しいものを作っているときほど古典の奥深さに気付くことが多い」

 自らアイデアを出して生み出した新作歌舞伎「あらしのよるに」では、義太夫節など古典歌舞伎の演出を駆使、動物しか登場しない原作の絵本の世界観を見事、歌舞伎に移し、子供から大人まで大きな感動を呼んだ。

 忘れられない言葉がある。若い頃から獅童に目をかけてくれた十八代目中村勘三郎に言われた〈渋谷を歩いているような若者を歌舞伎に振り向かせるのが君の役目だよ〉。

 「その言葉はいまもずっと僕の心の中にある。僕の使命のひとつだと思っています。ただ、これだけいろんな楽しみがある時代に歌舞伎に振り向いていただくのは本当に難しい。だからこそお客さまのハートに届くよう、ひたすら気持ちを込めて舞台を勤めたいと思っています」

 そのひとつが、8月2日から26日まで、京都・南座で上演される「八月南座超歌舞伎」だ。バーチャルシンガー、初音ミクとの“共演”で「今(は)昔(な)饗宴(くらべ)千(せん)本(ぼん)桜(ざくら)」などを上演する。このまったく新しい歌舞伎は人々を驚かせ、サブカルチャーに関心のある若者たちを歌舞伎に引きつけた。

 「アナログとデジタルの融合で何が生まれるか見極めたい。歌舞伎の可能性をもっと切り開いていきたい。新しいことへのチャレンジは苦労も多いけど、苦労がないところに喜びもないですからね」

 そう言ってちゃめっ気あふれる笑顔を見せた。「夢はふくらむばかりです」

 一昨年春、初期の肺腺がんと診断され治療に専念、同年秋に復帰を果たした。

 「復帰の舞台で花道に立ったとき、ここが自分のいるべき場所だと改めて感じました」としみじみ。

 「年を取るほど人は現状を守りたくなるもの。でも、がんを経験したことで失敗を恐れなくなった。人生は一度きり。チャレンジする勇気を持ち続けたい」

 近年、その活動はますます多彩だ。絵本を原作にした新作歌舞伎「あらしのよるに」は再演を重ね、東京都内の倉庫で「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」を上演。バーチャルシンガー、初音ミクと共演の「超歌舞伎」もライフワークになった。

 「演じる人間の人生観は必ず役柄に投影される。この二つが重なったとき、思いもかけないほど深い感動を呼ぶ。だからこそ自分探しの旅を続けていきたい」

 一言一言かみしめるように語る言葉に歌舞伎にかける人間の覚悟が見えた。

(亀岡典子)

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