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調整力失う国際機関 改革へ問われる日本の役割

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 輸出管理厳格化をめぐって韓国が日本に対する提訴手続きを再開した世界貿易機関(WTO)は、設立から25年がたち、紛争解決の機能不全など制度疲労が顕著だ。新型コロナウイルスの感染拡大で各国の自国優先の姿勢が強まり、米国と中国の対立もさらに激しくなると予想される。通商問題を取り扱う国際機関・会議の重要性が増す一方、多国間協調のハードルも上がるのは必至で、これまで以上に日本の役割が問われる。

 WTOは加盟国・地域同士の貿易上の紛争を解決するための準司法的な制度を設けており、「自由貿易の番人」と呼ばれている。しかし、裁判の「最終審」に当たる上級委員会が米国の反対で任期が切れた委員の補充ができなくなり、昨年12月に機能が停止。紛争処理機能が1995年の設立以来初めてまひした。米紙ウォールストリート・ジャーナルは「世界貿易を促進するため、米国と欧州諸国を中心に50年以上かけて交渉してきた国際的なルールが危機にひんしている」と強調。WTOのアゼベド事務局長は5月、任期を1年前倒しし、今年8月末で辞任する意向を示した。

 次期事務局長選には、韓国産業通商資源省の兪明希(ユミョンヒ)通商交渉本部長が立候補を表明。他にナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相ら数人が候補者として届け出ており、7月8日に立候補が締め切られて選挙戦に突入する。茂木敏充外相は今月26日の記者会見で、「日本の対応は検討中だ。次期事務局長に求められるのは主要国の利害を調整する能力だと思う」と話した。

 次期トップ選びが注目されるのは、WTO改革が急務だからだ。紛争処理機能の修復だけでなく、デジタル経済の発展に対応するためのルールづくりや、協定の履行状況の監視強化も課題になっている。

 みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「WTO改革を含む多国間協調はコロナ後、以前より厳しい試練の時を迎えるだろう」と指摘する。世界各国が経済の立て直しを優先し、「自国第一」の政策を取る懸念が強いことや多国間協調を主導するリーダーが不在であることを理由に挙げる。

 G20(20カ国・地域)首脳会議(サミット)も、2017年に米国第一主義を掲げるトランプ政権が発足してからは、それまで明確に掲げていた「反保護主義」を打ち出せなくなった。

 世界的な機関・会議が利害を調整する力を失っており、立て直しは容易でない状況だが、資源のない日本にとって自由貿易は“生命線”といえる。政府関係者は「新型コロナで重要性が増しているデジタル経済のルールづくりを含め、日本がWTO改革を主導していきたい」と話している。(高橋寛次、ロンドン 板東和正)

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