PR

【経済インサイド】眠っている企業のお金を動かせ 「官製M&A」はいばらの道

PR

三菱商事や三菱自動車が出資するインドネシアのゴジェックのバイクによる配車サービス
三菱商事や三菱自動車が出資するインドネシアのゴジェックのバイクによる配車サービス

 政府・与党で議論が進んでいる令和2年度の税制改正で、自民党の税制調査会が目玉に据えている一つが、企業の合併・買収(M&A)を税制で後押しする支援策だ。企業が稼いだ利益のうち、株主への配当などを除いた現預金を過剰に保有していることへの批判が高まっており、このお金を投資に回そうというのが狙いだ。しかし、世界経済が不透明な中で、買収額に見合う利益を実現できなければ、企業が投資家から厳しく批判される。「官製M&A」の実現はそう簡単ではない。

 10月に開かれた政府の未来投資会議でも、過剰な現預金の問題点について議論された。

 足元(平成30年度)の企業の現預金は240兆円となり、24年度に比べて約50兆円積み上がっている。一方、研究開発費をみると、年間1兆円の研究開発費を投じるトヨタ自動車でさえも米アマゾンの3.2兆円に遠く及ばない。米巨大ITに比べて、日本企業は、創業間もないスタートアップ企業の買収や出資の事例が圧倒的に少ない、との指摘があった。米グーグルが、動画投稿サイトのユーチューブやネット広告企業などを矢継ぎ早に買収し、新サービスを打ち出しているのに対し、日本企業は後塵を拝していると分析。内閣府幹部は「日本企業はGAFAに比べて、投資やM&Aが明らかに少ない」と指摘した。

 “眠っている”現預金を動かし、消費や経済の好循環につなげることは、安倍晋三政権発足以来の目標。そこでM&Aを推進しようと、経団連に賃上げを直接要請し、消費の活性化を目論んだ「官製春闘」の再現を狙っているようだ。

 ただ税制が整備されれば企業の投資が一気に進むかといえば、そう簡単ではない。日本企業がM&Aのターゲットと目論む、人工知能(AI)や金融と情報技術を融合するフィンテック、自動運転などのデジタル技術を持つ企業への投資は、世界的な金融緩和もあって競争が激しいからだ。また、米中貿易摩擦の長期化など先行き不透明の中で、「英国や中国への投資は慎重に様子を見ている」(大手商社首脳)という事情もある。

 デジタル技術でアジアの社会課題解決に商機を見いだそうと、日本企業は国内外で投資に動き出してはいる。中でも、改革の波が押し寄せる自動車業界は、トヨタ自動車がシンガポールの配車サービス大手のグラブに1000億円強を出資したほか、三菱商事や三菱自動車もインドネシアでバイクや車の配車サービスを通じ、料理宅配や買い物代行を手がけるゴジェックに出資した。

 各社とも米国のシリコンバレーなどで企業投資ファンドを設立し、自動運転など新技術の目利き力を高めるが、現実は手探りの状態だ。

 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は「具体的に(デジタル革新を)社会実装しようとすると、明るい話だけではなく、業界再編や企業の新陳代謝など痛みを伴う部分を加速しないといけない」と指摘する。

 実際、社会インフラなどの提案力を武器にしたサービスへの転換を図る日立製作所は、日立物流や日立キャピタルの売却に続き、このほど上場子会社の日立化成の売却も明らかになった。まずは、原資を確保しないと、大型M&Aができないからだ。

 経団連は11月に中西会長の肝いりで「デジタルトランスフォーメーション(DX)会議」を立ち上げた。それぞれの企業が痛みを伴う構造改革に切り込むと同時に、経済界で情報を共有し、デジタル技術を使ってアジアの消費や社会インフラ市場を開拓できるか。その具体的な議論に着手した。スタートアップとの連携や新技術への投資のあり方に加え、人材のあり方も議論する。

 このような攻めのM&A投資を実現するには、新卒一括採用や終身雇用などの日本型経営からの脱却が不可欠。税制による支援を契機に、官民が膝をつき合わせて知恵を絞る必要がある。(経済本部 上原すみ子)

この記事を共有する

関連トピックス

おすすめ情報