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【検証エコノミー】北極圏LNG参画 官民で乱れる足並み 北方領土交渉のカード 対露制裁がリスク

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ロシア北極圏のヤマル半島にある液化天然ガス(LNG)施設「ヤマルLNG」(ロイター)
ロシア北極圏のヤマル半島にある液化天然ガス(LNG)施設「ヤマルLNG」(ロイター)

 ロシアの独立系ガス大手ノバテクが、北極圏の液化天然ガス(LNG)事業への出資を三井物産と三菱商事に打診し、日本の官民が水面下で参画を模索している。北方領土の交渉を進めたい官邸は同事業参画を交渉のカードにしようと前のめりだが、民間は経済合理性の観点から慎重な姿勢を崩さず、足並みは乱れている。6月の20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて開かれるとみられる日露首脳会談が節目となるだけに、打開策を打ち出せるかがカギとなる。

 ノバテクが進めるのは、北極圏にあるロシア北部ヤマル半島でのLNG事業の第2弾にあたる「アークティック(北極)2」(ヤマルLNG2)の基地建設。総事業費は3兆円超とも想定され、ノバテクはヤマル2の権益に6割を出資する方針だ。すでにフランス石油大手トタルが10%を出資する方針を表明し、30%の出資を日本、サウジアラビア、中国企業に打診している。

 ロシアのプーチン大統領は今月9日にサンクトペテルブルクで開かれた「第5回国際北極圏フォーラム」でも改めて北極圏開発の重要性を強調。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部の原田大輔担当調査役は「早晩、既存油田の減退が見込まれる中で、北極圏のLNG開発はその代替開発であり、アジアの新たな市場開拓につながるプーチン政権最大の肝いり案件」と分析する。

 北極圏の可採埋蔵量は世界の未発見の天然ガスの30%弱、石油などの13%に上る。地球温暖化で、夏場の海氷が減少し、東向きの北極海航路を使ったアジア向け輸送が拡大するとの期待が高まったこともあり、開発に注目が集まっている。

 こうした中、日本政府はヤマル2への参画を領土交渉の前進につながる大型経済協力に位置づけたい考え。政府関係者はこのほど、三井物産、三菱商事に対しエネルギー安全保障上の観点からJOGMECを通じ、ヤマル2への出資の5割超を支援して事業参画を後押ししたい意向を伝えたもようだ。

 ヤマル2からの輸送は、西向きには欧州への通年運航が可能だが、東向き航路は氷が解ける夏季のみの運航で、アジア向けにはコストがかかる。このため、政府は、積み替え基地の建設などには国際協力銀行(JBIC)などの政策金融も総動員する構えだ。

 世界のLNG需要は、環境重視に傾く中国が2017年に韓国を抜き第2のLNG輸入国となり、日本を抜くのは時間の問題だ。南西アジアなどでも需要が急増し、23年ごろには需給が逼迫(ひっぱく)する見通し。こうした市場環境の変化で昨年以降、大手商社の大型プロジェクトの投資決定も再開の機運が高まっている。

 加えて「LNGは日本やアジアにとって再生可能エネルギーの本格導入前の重要なエネルギー源で、ロシアからの調達先多様化は安全保障上の意義も大きい」と関係者は口をそろえる。

 ノバテクも生産コストは米国産シェールガスを下回ると、生産コストの競争力をアピールする。

 ただ、三井物産と三菱商事は権益の取得価格などを交渉中だが、ロシア側も強気で、「きちんと株主に説明できるだけの採算性確保」には至っていないもようだ。権益の取得価格をめぐっては、仏トタルも参画を表明した昨年に比べ原油価格が下がっているため値下げ交渉中ともいわれるが、ロシア側は譲らず難航しているとみられる。

 最大のリスクは、米国による対露経済制裁の行方だ。現行の制裁では、LNG事業は除外されている。ただ、今後、制裁対象に追加されれば、影響は避けられない。

 JOGMECの原田氏はヤマル2について「ロシア側の補助金や輸出税、法人税などの減税があって、初めて成り立つプロジェクトだ」と指摘する。こうした支援策が継続するかどうかやロシア側の政府保証なども三井物産や三菱商事が事業参画を決める条件となりそうだ。

 日本政府はロシア側から秋波を送られていた国営石油大手ロスネフチの株式の一部取得をスイスの資源大手グレンコアやカタール投資庁にさらわれた苦い経験がある。

 ノバテクは年内の最終投資決定を模索しており、6月に大阪で開かれるG20首脳会議の際には、ノバテクのミケルソン最高経営責任者(CEO)の来日も想定される。それまでに交渉で一定の成果を上げられるか。残された時間は少ない。(上原すみ子)

     

 ■ヤマルLNG2 ロシアの独立系ガス大手のノバテクが進める北極圏のLNG事業。生産能力は先行するヤマルLNGと同じ、約1650万トンで、2023年ごろの生産開始を目指す。17年12月に生産開始したヤマルLNGは、日本勢の権益取得はなく、LNGの直接購入契約もないが、プラント建設は日揮や千代田化工建設が参画し、国際協力銀行(JBIC)が海外輸出信用機関と共同で融資した。

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