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【ニッポンの議論】原発停止とブラックアウト 奈良林直氏「いち早く稼働させよ」 飯田哲也氏 「再生エネ移行目指せ」

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環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長(左、飯田英男撮影)と東京工業大学の奈良林直特任教授(右、森田晶宏撮影)
環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長(左、飯田英男撮影)と東京工業大学の奈良林直特任教授(右、森田晶宏撮影)

 あす6日で発生から1カ月を迎える北海道の地震では、一時は道内が全域停電(ブラックアウト)に陥るという日本初のアクシデントに見舞われ、エネルギー供給体制のあり方に大きな課題を突きつけた。平成24年から停止している泊原子力発電所がもし稼働していれば、ブラックアウトは回避できたと見る向きも一部にある。ブラックアウトの背景や今後の原発稼働について、東京工業大学特任教授の奈良林直氏と、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏に聞いた。

 奈良林直特任教授

 --今回のブラックアウトで表面化した北海道の電力危機は波紋を広げた

 「起きたのが厳冬期でなかったのは不幸中の幸いだ。北海道で生活した経験があるが、真冬の北海道は特に寒さが厳しい。現在の灯油やガスストーブは電源を必要とする。もしそうしたタイミングで起きていたら、かなりの数の凍死者が出ていたのではないか」

 --自身にとって想定外だったか

 「道内全域かは別として、2003年の北米大停電のようなリスクを著書などで指摘し続けてきた。北海道では泊原発が停止しており、火力発電への依存度が高まっていた。近年は太陽光発電や風力発電が増えているが、天候によって発電量が変動する。何かのきっかけで電力の需給バランスが崩れて大規模停電に陥る危うさがあった」

 --もし泊原発が稼働していれば、ブラックアウトは回避できたのか

 「回避できたと思う。泊原発は1~3号機の総出力が207万キロワットで、今回の震源からも距離がある。全3基、もしくは最新鋭の3号機(91・2万キロワット)のみが稼働していたとしても、苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所に集中した運用にはならないので、需給バランスの崩壊は起きなかったのではないか。原発を止めているリスクが浮き彫りになった」

 --全国で原発再稼働は滞っている

 「電源の多様化は重要なのに、東京電力福島第1原発事故の後に策定された新規制基準のもとで再稼働したのは5原発9基にとどまる。欧米の原子力規制はむやみに原発を停止させないのが鉄則で、彼らは原発をいたずらに止めれば電力供給が危うくなることを知っている。だが、日本は政府も原子力規制当局も原発を止めているリスクを十分に認識しているとはいえない」

 --日本の原子力規制のあり方に強い疑念を抱いているようだが

 「原子力基本法には、原子力利用の安全確保について『確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として行う』とある。原発の新規制基準の適合審査は、国際的な基準では稼働状態で行うべきだ。原発を止めて長い期間をかけて審査することは、大停電リスクを高め、『国民の生命、健康及び財産の保護』の趣旨に反している」

 --今回のブラックアウトの経験をエネルギー政策にどう生かすべきか

 「第三者の検証委員会でブラックアウトの原因究明などが始まったが、電力供給体制が脆弱(ぜいじゃく)になっていることは否めない。また、原発の活用でいえば、7月に改定された国のエネルギー基本計画は玉虫色の印象で、政策の方向性がよく分からない。電源の多様化の観点からも、二酸化炭素(CO2)の排出を確実に減らせる原発を早く戦列復帰させるべきだ」 (森田晶宏)

 ならばやし・ただし 昭和27年、東京都出身。東工大大学院理工学研究科修士課程修了。東芝勤務や北海道大助教授を経て、平成19年に北海道大教授。今年3月に定年退官し4月から現職。専門は原子炉工学。

 飯田哲也所長

 --今回のブラックアウトで北海道電力の対策は十分だったか

 「対策が不十分というよりも、構造的な問題だ。つまり、(苫東厚真火力発電所に集中した)大規模集中型電源の脆弱さがあらわになった。東京電力福島第1原発事故の時は炉心溶融(メルトダウン)という形で弱さが出たが、今回はブラックアウトという結果をもたらした」

 --北海道と本州をつなぐ緊急送電線(北本連携設備)は増強する計画だ

 「(来年3月の増強計画よりも)早く太くしておけばよかった。ただ、北本連携設備は、連携線自体は電源開発(Jパワー)が持ち、北海道側は北電、本州側は東北電力の設備だ。そして本州側から北海道に送る電力は東京電力と東北電力によるものだ。つまり、利害関係者が4者いるため、誰にとって利益のある投資案件なのか見えにくくなっている。もっと政府が前に出て、国のプロジェクトとして北本連携設備を増強すべきだ」

 --仮に泊原発が稼働していればブラックアウトは防げたか

 「泊原発が動いていれば、苫東厚真火力発電所の稼働は低く抑えられていただろう。その意味ではブラックアウトには至らなかったかもしれない。しかし、泊原発は大規模集中型電源の最たるものだ。今回は火力発電の苫東厚真だったから、稼働が停止してもブラックアウトにとどまったともいえる。もし泊原発がなんらかの事情で同様に止まれば、ブラックアウトに加え、メルトダウンや放射性物質の放出といった追加のリスクにさらされる」

 --地震直後にはほとんどの風力発電もダウンした

 「地震による直接の被害でダウンした風力発電はほとんどないだろう。地震による供給力の低下で需給バランスが崩れ、北電の電力網とつながっている風力設備は自動的にシャットダウンした。(発電・変電・送電などの)電力系統が地域ごとに分散したネットワークであれば、全ての地域で風力発電が止まることはなかったと考える」

 --今回の教訓は

 「政府が7月に閣議決定したエネルギー政策の枠組みを決める『エネルギー基本計画』では、再生可能エネルギーを主力電源化すると明記された。しかし、北電はこれまで積極的に再エネに取り組んでいなかった。推進していればブラックアウトを防げたとまでは言わないが、少なくとも苫東厚真に過度に寄りかかってはいなかっただろう。再エネの普及も技術的な進歩も早い。北電だけでなく全国的にも、太陽光と風力発電などの再エネを中心とした分散ネットワーク型のエネルギー体制にできるだけ早く意識的に移行することが、大規模集中型電源の脆弱さを回避する道のりになる」(大柳聡庸)

 いいだ・てつなり 昭和34年、山口県出身。京大大学院工学研究科原子核工学専攻修士課程修了。神戸製鋼所や電力中央研究所、日本総合研究所などを経て平成12年9月から現職。エネルギー政策を提言する。

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