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【朝晴れエッセー】日溜まりの温もりのような話・2月24日

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 道路脇には数日前に降った雪が残る寒い日の午後、近所のバス停から市バスに乗車。

 運転手は「路肩に雪があり滑りますから、降車の際は十分ご注意ください」と、親切なアナウンス。バリトン張りの澄んだ声にうっとり聞き入ってしまいました。

 が、それから間もなく「そこのぼく、さっきから何回も降りるボタン押したよね。おじさん見てたよ」。母親とお兄ちゃんの3人づれの家族。車内の乗客は一瞬、どんな言葉が次に発せられるのか、一同固唾をのみ耳をそばだてた。

 「おじさんもね、ぼくのように小さかった頃、降りるボタンが気になっていつも押したかったんだよ。ぼく、もう1回だけ押してもいいよ」と。ぼくは「はい」と返事をし1回押しました。

 それからその子の母親が運転手に何と言って下車したかは、あいにく聞きとれませんでしたが、バスが行き過ぎるまで3人で手を振り会釈をする姿がありました。運転手もそれに応え手を振る白い手袋が揺れていました。

 てっきり怒られると思っていただろう「ぼく」には、運転手の優しい言葉がどんなふうに聞こえていたのでしょう。生涯心のどこかに楽しい嬉しい思い出のひとつに残ってほしいと。

 国中がコロナ禍の重苦しい暗い世相の中にある今日、日溜まりの温もりの中にいるようなほのぼのとした車中でした。

大泉芳子(70) 仙台市青葉区

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