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【思ふことあり】先入観を捨てて転機に臨む スポーツジャーナリスト・増田明美

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 長い横断歩道を斜めに横切る、首都高速の某入り口でのこと。つえをついた80歳くらいのおばあちゃんが横断歩道の手前に立ち、車が途切れるのを待っていた。しかし、次から次へと車が来て渡れない。そのとき、土砂を積んだ大きなダンプカーがやってきた。

 すると、そのダンプカーは横断歩道のかなり手前で停車。運転席では短髪にサングラスの怖そうな人が手を大きくゆっくり動かし、「どうぞどうぞ」とおばあちゃんに渡るよう、うながしていた。おばあちゃんはペコリとお辞儀をしてつえをつきながら渡った。そしてダンプカーは静かに高速へと入っていったのだ。

 この出来事は2月上旬、梅が香り始めたジョギング中でのことだった。私は、心がほっこりして、でも少し反省もした。それまで大きなダンプカーにサングラスをかけて乗っている人は「怖い」という先入観があったからだ。

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 「女性蔑視発言」により、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長を辞任した森喜朗さんのことも、先入観をもってみられているのではないだろうか。発言内容は許されるものではないが、メディアを中心とした袋だたきの様相には、違和感を覚えた。

衆院予算委員会後、次期東京五輪組織委員長へ一本化との報道で記者団に囲まれる橋本聖子五輪担当相=17日午後、国会内(春名中撮影)
衆院予算委員会後、次期東京五輪組織委員長へ一本化との報道で記者団に囲まれる橋本聖子五輪担当相=17日午後、国会内(春名中撮影)

 発言は会議で決議を終えた後でのこと。実際の森さんを知っていれば、その場を盛り上げようとするサービス精神が失言を招いてしまったのだと予想できる。近くにいた人がフォローしなかったことは問題だと思う。

 そして、後任の会長に就任したのは橋本聖子さん。橋本さんは冬、夏合わせて7回のオリンピックに出場し、参院議員としても25年の経験を積んでいる。

 以前、オリンピック経験者のOG会でお会いしたときに「オリンピックとパラリンピックの経験者が力を合わせて社会貢献できるような環境をつくりたい」と言われていた。会合や行事でも全く偉ぶらず、人の話によく耳を傾けてくれる。大臣職を辞して、覚悟を持って引き受けた橋本さんの今後に期待したい。

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 NHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」が始まった。1840年生まれの渋沢栄一は1867年に27歳でパリ万博を視察し、ヨーロッパ各国を訪問した。そして帰国したときは明治になっていた。激動の幕末から明治がどのように描かれるか楽しみは尽きない。

 社会の仕組みがガラリと変わる中で、栄一は次々に事業を興していく。それと同時に日本赤十字社をはじめとする社会事業も生み出した。そこにはきっと、先入観=固定観念との闘いがあったに違いない。

 日本社会も大きな転換点にいるように思う。自動車はエンジンからモーターへと動力源が変わりつつある。コロナ禍を機にリモートワークが増え、仕事の在り方だけでなく生活自体が見直されている。ジェンダーの問題もこの機に改革のスピードが増すだろう。

 でも時代が変わっても大事にし続けなければいけないものもあると思う。栄一の唱える「論語と算盤(そろばん)」もその一つだ。道徳と営利活動を両立できなければ、社会的には存在価値はない。そして今や道徳の中身には環境保全やジェンダーフリーも加わっている。

 過去の経験に基づく先入観を振り払って進まなければ、国際社会から取り残されていく。そういう私はいまだにスマホを持っていない。ダンプカーは怖い、スマホは必要ない-。先入観はなかなかの難敵である。

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