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【世界の論点】核兵器禁止条約発効 仏紙は「理想と現実」の乖離を問題視

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核兵器禁止条約の発効にあわせ、キャンドルを並べて作られた「NO NUKES」などの文字。後方は原爆ドーム=1月22日、広島市の平和記念公園
核兵器禁止条約の発効にあわせ、キャンドルを並べて作られた「NO NUKES」などの文字。後方は原爆ドーム=1月22日、広島市の平和記念公園

 核兵器の開発や保有、使用を全面的に違法とする初の国際法規、核兵器禁止条約が1月22日、発効した。欧州では、外交安保における核保有の意義を重視するフランスで条約の実効性を疑問視する論調が登場する一方、日本と同様に米国の「核の傘」に入る国々で参加見送りを批判する声も上がった。条約制定主導国の一つ、ニュージーランドでは、条約が不参加国にもたらす波及効果にも期待を寄せている。

≪ポイント≫

 ・仏紙は「理想と現実」の乖離を問題視

 ・欧州で「核は東西冷戦の遺物」批判も

 ・NZ、核保有国の怠慢に「うんざり」

 ・不参加国の政策、企業投資にも影響か

■仏 核保有は独自外交の要に

 欧州連合(EU)唯一の核兵器保有国であるフランスで、核兵器禁止条約(核禁条約)発効を伝える報道は少なかった。同国で条約をめぐる論議が低調なのは、歴代政権が左右を問わず、米国と一線を画す独自外交の要として核兵器を重視してきたからだ。

 マクロン仏大統領は昨年、フランスが「核の傘」を提供し、欧州独自安保を進める構想を提案した。仏政府は1月22日、新条約の発効にあわせて「条約には、核兵器をなくす効果はない。検証のメカニズムを欠いており、核拡散防止条約(NPT)を弱体化させるものだ」と批判する声明を発表した。

 同26日付仏紙フィガロは、イランの核開発を大幅に制限するイラン核合意に関し、「ロシア、パキスタン、イスラエルに囲まれているのに、なぜ核兵器を持つ権利がないのか」と問題提起した。核保有状況をあいまいにしているイスラエルを含め、核兵器配備が世界に広がる中、条約は現実離れしているという認識がうかがえる。

 同紙は昨年10月、50カ国・地域の批准で核禁条約の発効が決まった際の論説でも、核抑止力について「武力行使を抑える効果がある」と正当化した。平和活動家は条約発効を「歴史的勝利」とたたえるものの、核保有国はおしなべて署名に加わらず、条約が掲げる理想と現実には大きな乖離(かいり)があると指摘した。

 これに対し、仏紙ルモンドは、条約は実効性を欠くとしながら、「核兵器を持つ民主主義国にプレッシャーをかける。核兵器に対する世論に配慮せねばならなくなる」として、一定の効果があると認めた。

 一方、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中でも、日本と同様に米国の「核の傘」に守られる国からは、新条約参加見送りを批判する声も上がった。

 ドイツ誌シュピーゲル(電子版)は1月22日、核禁条約を支持するドイツ、オランダ、ベルギーの学者による共同寄稿を掲載した。この3カ国は米軍の戦術核を国内に受け入れており、有事の際は、自国軍機で運搬する任務を担う。

 寄稿は「われわれの国にとって、核兵器は東西冷戦の遺物であり、軍事的に意味はない」と位置づけた。3カ国の核兵器は、欧州が米ソ対立の最前線だった時代に持ち込まれたもので、すでに国防上の意味はないのだから、各政府はできるだけ早く核禁条約に加われ、と主張した。

 フランスと異なり、ドイツでは冷戦時代から、核廃絶運動が活発だった。欧州では、中立国のオーストリアやアイルランドが条約を批准している。(パリ 三井美奈)

■NZ 不参加国や企業にも影響

 核軍縮の旗振り役となってきたニュージーランド(NZ)では政府やメディアが「核兵器禁止条約」(核禁条約)発効を歓迎した。核保有国は参加を見送ったが、開発や保有を例外なく違法と定めた国際法規の成立は、「核軍縮への重要な一歩になる」と期待を寄せている。

 NZ国内では第二次世界大戦後、近隣の太平洋地域で相次いで核実験が実施された経緯から、核兵器への反発が根強い。政府は1987年には「非核法」を成立させ、核兵器を積んだ艦船や軍用機の入国を全面的に禁止しており、米国との関係が一時冷却化した時期もあった。非核は「国是」ともいえ、核禁条約は2018年に批准している。

 NZメディアは核禁条約発効を喜ぶ市民の様子を伝えた。豪メルボルン大准教授は1月22日付のNZオンラインメディア「スタッフ」などを通じ、条約批准国は「核保有国が半世紀以上にわたって、世界から核兵器を排除する義務を怠ってきたことにうんざりしていた」と指摘した。核禁条約を「ゲームチェンジャー(局面を一変させる存在)」と表現した上で、「核兵器を近代化し維持する計画は危険にさらされている。条約は必要かつ重要な一歩だ」と発効を歓迎した。

 核保有国には拘束力が及ばないため条約の実効性には疑問の声が上がるが、記事は新条約がもたらす不参加国への波及効果にも言及。国防政策や軍事計画のほか核兵器の製造・維持に関連する企業への投資判断などにも広く影響を与えると期待を寄せた。

 参加を見送った日本やオーストラリアなどに対しては、核禁条約は「核保有国との軍事協力を妨げるものではない」と指摘し、「核の傘」に依存しない形での安全保障体制の構築を促した。

 NZ政府も歓迎する意向を示した。トワイフォード軍縮・軍備管理相は22日の演説で、核禁条約をめぐってNZ政府が果たした役割を強調した上で、「もちろん核保有国がすぐに核兵器を手放すわけではない。しかし、(条約の存在は)『核兵器が私たちをより安全にしてくれる』という議論の維持を難しくさせるだろう」と述べた。

 一方で、トワイフォード氏は核戦争勃発への危機感が高まっていた冷戦期と比べ、核兵器や核軍縮への国際的関心が低くなっていることにも触れた。「現在は、主に気候変動の影響を含む環境面での惨事に焦点が当たっている。NZ国内でも一般市民やメディアの関心が低下していることは明らかだ」と述べ、核軍縮に向け再度の機運醸成が必要だとの見方を示した。(シンガポール 森浩)

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