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【論壇時評】1月号 深まる米国の分断で笑う者は 論説委員・岡部伸

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米ワシントンの連邦最高裁前で大統領選結果の不当性を訴えるトランプ氏支持者ら =12月8日(ロイター)
米ワシントンの連邦最高裁前で大統領選結果の不当性を訴えるトランプ氏支持者ら =12月8日(ロイター)

 米大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン候補(前副大統領)が勝利を確実にした。しかし、バイデン政権が誕生しても米国の分断が深まったままでは、かつてのような指導力を世界で振るうことは難しい。覇権に挑む新たな全体主義国家、中国を封じ込め、アジア経済の安定を守るには、日本はどうすべきか。

 「分断でなく団結を目指す」。勝利宣言でバイデンは、国民融和を訴えたが、78歳の前途は洋々ではない。トランプが7400万人もの有権者から支持を得て共和党のキングメーカーとして一定の影響力を保持し続けることは確実だ。

 東洋大学教授の竹中平蔵は、『文芸春秋』で、証券界のストラテジスト(投資戦略立案者)の意見として、78歳のバイデンは「“アメリカ史上最も弱い大統領”になるのではないかと。四年後は八十二歳ですから、当然二期目はあり得ません。かつ四年の任期のうち、後半の二年はレームダック(死に体)と化すのではないか」と懸念する。

 「バイデン氏が大統領に就任しても米国内政の混乱は収まらない(中略)。米国の社会的分断はさらに加速するであろう」。『中央公論』で、作家、元外務省主任分析官の佐藤優は明言する。

 バイデン支持者とほぼ拮抗(きっこう)するトランプ支持の国民がバイデン大統領の正当性を認めず、トランプという共通の敵を失った支持者は団結が困難となる可能性が高い。民主党内では、黒人やジェンダーなどさまざまなアイデンティティーに帰属する人々が集まっているためだ。

 米国の国力や覇権国としての衰退について、京都大学名誉教授の中西輝政は、『Voice』で、「人種や階級、地域、価値観やイデオロギーなどあらゆる局面で亀裂が生じています。現下の党派対立は、歴史上多くの大国を衰退に追いやったほどの病的なレベルに達している」と嘆息する。

 「『米国の分断』には二つの層がある」。慶応義塾大学教授の渡辺靖は、『中央公論』でこう述べ、「東西冷戦が終結し、ソ連という『大きな敵』が消失した結果、『内なる敵』としての左右の党派対立が顕在化するようになった」と分析。さらに両党における主流派(中道派、エスタブリッシュメント)の求心力低下を指摘し、「民主党内ではサンダース旋風、共和党内ではトランプ旋風という左右のポピュリズムが台頭し、同じ党内の主流派を厳しく批判。民主党では左バネ、共和党では右バネが強まった」とし、超党派による協力が一層困難になったと主張する。

 民主党左派のサンダース流の民主社会主義と共和党右派のトランプ流の米第一主義は大きく立場が異なるが、党内主流派に反抗しグローバリズムへの不信を共有し、保護主義、孤立主義に傾きがちな点で一致する。

 2016年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選択した英国など欧州でもグローバリズムの浸透により、格差拡大で中間層が瓦解(がかい)し、移民の増大でポピュリズムが増大した。

 「『米国の分断』は大統領一人代わっただけで解消できる問題ではない」と渡辺も「分断」は続くと予測し、「『米国の分断』がもたらすこうした状況を最も歓迎しているのは、中国やロシアなどの権威主義国家であり、暴力的な過激集団であろう」と分析する。

 中国に対してはコロナ禍に香港での人権弾圧が加わり、国際社会の目が厳しくなり、米国内で対中強硬路線は党派を超えたコンセンサスになっている。

 元アメリカ通商代表のミッキー・カンターは、『文芸春秋』で、アメリカはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に復帰すべきだと主張し、「地域において共通の価値観を共有するアメリカの仲間(アライアンス)を再構築し、中国に対峙(たいじ)していくべき」と訴え、「同盟国との関係を強化しつつ、統一戦線(United Front)で中国に働きかけていくべきで、とくに日本は大切と私は考えている」と対中で「日米統一戦線」を提案する。

 「米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという『英語圏』と『中国』の対抗関係が中心となり、このライバル関係が“今後の世界の新たな形”をつくっていくことになる」

 フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッドは、『文芸春秋』で、機密情報を共有するアングロサクソン5カ国ファイブアイズが“中国包囲網”の基盤になると指摘する。

 中西輝政は、『Voice』で、中国抑止とアジア経済安定が日米両国の2021年最大のテーマの一つになるとし、「アメリカをTPPに引き入れることが日本にとっての最善の目標となる」と提言する。欧州連合(EU)を離脱し、TPP加盟を目指す英国と米国がTPPに入れば、EU諸国も関心を持たざるを得なくなり、中国抜きのTPPは「経済的枠組み」から「政治的枠組み」に深化する可能性が高いためだ。

 日本は米国が分断に苦しむなか、英米のTPP入りを後押しするなどファイブアイズと一層連携を深め、現状の秩序と自由と民主主義を守っていかなければならない。(敬称略)

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