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【朝晴れエッセー】休校という名の日常・6月8日

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 「学校再開だって!」。小学生の娘たちに伝えると、目を輝かせて言った。「うれしい! お友達に会える!」

 約3カ月に及んだ休校生活。自粛を続けながらも、小さな楽しみをコツコツ積み上げてきたつもりだった。ヒビ割れたクッキーに、まる焦げのパン。シュロの枝で空飛ぶ魔女になった坂道に、バレエと称して踊り明かした夜。

 毎年娘たちが楽しみにしている群馬への帰省も今年はお預け。かわりにオンラインで乾杯した。時折画面上で固まるジイジを心配し、テーブルいっぱいに並んだバアバの手料理に思わずゴクリと唾をのむ。揚げたての春巻きに砂肝のにんにく漬け。目は満足したけれど、胃袋と胸の中に僅かな寂しさが残った夜だった。

 数日後、母から手作りマスクが届いた。競うように箱を開けた娘たちが、声をそろえて一言。「バアバのにおい!」。それは、オンラインで埋められなかった小さなすきまを静かに満たしていった。

 気が付けば、6月。春の日差しと追いかけっこするように、桜の木が次々と花を咲かせていったこと。日に日に背丈を伸ばしていく草花に追い越されてたまるものか、と牛乳を一気飲みしたこと。蝶々や赤ちゃんバッタを捕まえて虫かごにいれ「やっぱり広い世界がいいよね」といってサヨナラしたこと。

 いつの間にか、私たちにとって日常となっていた休校生活。それは、10年前、娘たちの小さな手をとって歩いた名もない散歩道を、再び歩いているような、ささやかで懐かしい日常でもあった。

熊澤裕子(41) 神奈川県海老名市

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