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【主張】川崎の児童殺傷 被疑者死亡で終わらすな

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 両手に包丁を握った男は「ぶっ殺してやる」と叫んでいたのだという。襲われた子供たちは、どれだけ怖かったろう。切られた子供は、どれだけ痛かったろう。

 亡くなった女子児童は理不尽にも、あるべき将来を失った。痛ましい事件が起きる度に再発防止が叫ばれるが、何も変わらない。反省も生かされない。

 川崎市多摩区の路上で28日朝、私立小学校のスクールバスを待つ児童らが次々と男に襲われ、19人が死傷した。男は自らの首を刺して自殺した。被疑者死亡のまま書類送検、不起訴となり刑事裁判は開かれない。だが、事件をこれで終わらせてはならない。

 柴山昌彦文部科学相は事件を受けて、「学校・通学路の安全確保に一層取り組んでいきたい」と述べた。自民党の二階俊博幹事長は「今回のような事態は再びあってはならない」とコメントした。

 しかし、凶器と殺意を持った犯人から子供を守ることには限界がある。安全確保の基本は子供を一人にしないことだが、今回は集団が狙われた。

 再発防止のために重要なのは犯行の芽を摘むことだ。事件の教訓や反省を得るためには、男の治療歴などの有無を含む人物像をつまびらかにしなくてはならない。

 平成13年には大阪教育大学付属池田小学校に男が押し入り、児童8人を殺害した。28年には相模原市の障害者施設で入所者19人が刺殺された。犯人はいずれも措置入院の退院後に犯行に及んだ。

 相模原の事件では「他害の恐れがある」と診断されながらの退院だった。医療行為の枠内で運用される措置入院は再発防止に資することができない。刑事司法が関与する「治療処分」導入の声は池田小の事件後にもあった。

 犯罪予防的な「治療処分」は英独などで制度化されている。だが導入への検討は「人権の侵害」や「治安維持の道具となる」などの反発を受けて頓挫したまま、相模原の事件は起きた。

 池田小事件の被告に死刑を言い渡した大阪地裁の裁判長は判決朗読後、「子供たちの被害が不可避であったはずはない、との思いを禁じ得なかった」と述べ再発防止への真剣な取り組みを求めた。

 今回の事件も、本当に不可避だったのか。再発防止に必要な法改正は何か。これを知るためにも事件の全容解明が欠かせない。

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