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【主張】個人情報 「実名」の重みを考えたい

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個人情報 「実名」の重みを考えたい

主張更新

 「匿名社会」は感情を希薄化させ、事実を遠ざけ、矮小(わいしょう)化させることにつながらないか。

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 改めて「実名」の重みを考えさせられる事案が続いている。

 東京都江戸川区の高校3年、岩瀬加奈さんが殺害され、強盗殺人などの罪が問われた東京地裁の裁判員裁判では被害者氏名の秘匿も検討されたが、遺族の意向で実名で審理された。

 母親は「私たちの娘は『少女A』ではなく、加奈です」と話し、判決後に裁判員は「実名審理で、より遺族に寄り添うことができた」と感想を述べた。

 千葉県松戸市に住む小学3年、レェ・ティ・ニャット・リンさんが殺害された事件では、父親が実名報道を希望した。一度は匿名への切り替えを要請したが、「これではリンちゃんがどんな女の子か分からない」「多くの人にリンちゃんのことが伝わってほしい」と考え直したのだという。

 きっかけは全国から届く「リンちゃんへ」と書かれた多くの手紙や花だった。そこには「リンちゃん」という一人の女の子の死を悼む気持ちが込められていた。

 英マンチェスターのコンサート会場で発生した爆弾テロ事件で、全世界のテロへの怒りを新たにさせたのは、犠牲となった8歳の女児、サフィー・ローズ・ルーソスさんの愛らしい写真だった。

 被害者の人数、性別、年齢だけが公表されても、事件の実相は伝わらない。それはいかなる自然災害、事故でも同様だ。

 保護対象情報を明確化した改正個人情報保護法が30日、施行された。平成17年の同法施行以降、公的機関などが同法を根拠に個人情報の公表を拒否するケースが相次いでいる。

 だが改正前も後も、同法は報道機関への情報提供については禁止規定の適用対象外としている。個人情報の報道については、その公共性や公益性に鑑み、プライバシーなどに配慮した上で、報道機関の責任において判断する。

 この点について周知が不十分で、守られていない。改正法が過剰反応を助長する恐れもある。

 加奈さんや、リンさんのケースは遺族の判断であり、保護法の趣旨とは別問題である。ただし、実名の重みや、匿名社会に潜む落とし穴を考慮する上では、同根である。生身の人間一人一人は、実名とともに生きている。