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児童虐待~連鎖の軛 第2部(4) 宅食 支援の新形態 LINE活用、異変察知

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 厳しい暑さが続いていた8月下旬。京都市伏見区の住宅街では、運送業者の配達員が米やレトルト食品を詰めた袋を手に、子供のいる家を訪ねて回っていた。「やったー。お菓子も入ってるやん」。玄関先ではしゃぐ子供たち、そして一緒に出てきた親に配達員が優しく声をかける。「何か困ったことがあれば、いつでも言ってください」。

 社会福祉法人「あだち福祉会」(同市)が運送業者や市などと展開する「こども宅食」。2カ月に1度、市の就学援助や生活保護を受給する家庭に、企業などからの寄付で用意した食品を届ける取り組みだ。

 市が把握する公的扶助の情報を活用し、小学校で教員から対象家庭の児童にこっそりと案内を渡す。希望者は市を介さず、無料通信アプリ「LINE」で法人に申し込む。

 どの家庭が扶助を受けているかは周囲に知られず、希望した家庭についても、どんな扶助を受けているかなどは法人側には開示されない。家庭事情という繊細な情報を守りつつ、必要とする家庭に支援が届くようにする方法で、京都市では8月から伏見区の135世帯を対象に本格的に開始。今後ほかの区にも広げていく。

 貧困家庭に対する物的支援という形だが「それはあくまで入り口」と同法人の畑山博理事長(60)。経済的な困窮は虐待につながりやすいと指摘される。厚生労働省の社会保障審議会の報告によると、虐待で子供が死亡したケースのうち、生活保護世帯など低所得世帯が占める割合が平成17年で6割、18年では8割をそれぞれ超えた。

 宅食の狙いは貧困家庭を見守り、支援につなげることだ。これまでも貧困家庭の支援はしてきたが、畑山さんは「自治体の情報によって対象家庭とピンポイントでつながれるようになった」と官民一体で取り組む意義を強調する。

 食品を渡す際のささやかなコミュニケーションの積み重ね。聞き取り調査などとは違う程よい距離感で、誰にも悩みを打ち明けられずに孤立し、虐待に発展してしまう「負の連鎖」を断ち切ることを目指す。

官民一体で

 宅食は平成29年10月、東京都文京区から始まった。区とタッグを組み、宅食を始めたNPO法人「フローレンス」(東京)の桂山奈緒子さん(35)は「対象者を『待つ』福祉だけでなく、『アウトリーチ(介入)』の福祉が必要な時代になった」と強調する。

 そう感じたきっかけは東京で開いていた「子供食堂」。拠点を構え、対象を限定せず訪れた子供に食事を提供し、地域のつながりを生む居場所として機能していた。だが「人目が気になる」「ばれたくない」とわざと遠くの食堂を利用する子供もいた。「子供食堂にたどり着けない『見えない』子もいる」。その気づきが、周囲に知られずに貧困家庭と関われる宅食のアイデアにつながった。

 ただ、どの家庭が経済的に困窮しているのか、支援を必要としているのか。そうした情報が壁となったため、貧困家庭に関するデータを持つ自治体と協力し、希望者を募る手法にたどり着いた。

 文京区の対象者は児童扶養手当や就学援助、生活保護の受給者。母親が無職の割合が高く、約半数の世帯収入は300万円以下だ。区子育て支援課長で社会福祉士の鈴木裕(ゆ)佳(か)さん(52)は「行政のマンパワー不足をカバーしてもらえる上、公的支援より敷居が低いように感じ、受け入れてもらいやすい」と民間と協力するメリットを説明。区は法人と家庭とをつなぐほか、人件費の一部を負担するなどしてフォローする。

 フローレンスなどが宅食を利用する431世帯に行った昨年度のアンケートでは、行政の相談窓口を利用している世帯はわずか7%で、「過去に利用した」を合わせても32%。地域の子供食堂や学習支援などの利用者も10%に満たなかった。

 自ら助けを求めない家庭でも、宅食という支援の手が差し伸べられれば頼る。支援のニーズが潜在化してしまっている状況が浮き彫りになり、桂山さんは「従来型の支援だけでは限界があると実感した」と語る。

程よい距離感

 文京区の宅食は今年で4年目。程よい距離感でつながり続けてきた成果は表れ始めている。

 「コロナで収入が減って生活が苦しいです。どうしたら良いですか?」。新型コロナウイルスが全国で猛威を振るい始めた今年3月ごろ、フローレンスのLINEに、貧困家庭の親などからこんなメッセージが30件以上も寄せられた。

 3月は学校の一斉休校が始まり、給食がなくなった時期。子供に3食を食べさせるため、自身の食事を抜いた親もいた。そこで対象の約600世帯に臨時で食品などを配布。桂山さんは「打ち明けてくれた悩みを支援につなげられた。これからも支援を必要とする家庭の伴走者として一緒に歩んでいきたい」と前を向く。

 文京区のように、フローレンスなどがバックアップして宅食を取り入れる自治体や民間は全国13地域19団体に広がり始めた。虐待につながる危険性をはらむ孤立しがちな家庭に周囲がすすんで関わり、小さなSOSをくみ取る。新たな「地域」の形が少しずつ構築されてきている。

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