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【東日本大震災8年半】壊滅的被害の宮城・閖上で美容室再開 取り戻した地域の団らん

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今年4月、美容室を再開した中橋さん。贈り物の花に囲まれた店内で客を待つ=宮城県名取市(千葉元撮影)
今年4月、美容室を再開した中橋さん。贈り物の花に囲まれた店内で客を待つ=宮城県名取市(千葉元撮影)

 東日本大震災は11日午後で発生から8年半となる。津波で壊滅的被害を受けた宮城県名取市の閖(ゆり)上(あげ)地区では今年5月、道路や施設の建設などが進み、「まちびらき」を迎えた。その閖上には、葛藤を抱えながらも帰ることを選び、古里に確かな足跡を残そうとする被災者の姿もあった。

 太平洋にそそぐ名取川の河口の土手に、心地よい風が吹き抜ける。

 「川から風が入って気持ちがいい。何かいい場所でしょ」

 閖上の名取川のそばに今年4月、まちびらきを前にオープンした商業施設「かわまちてらす閖上」。そこに入居する美容室「私の部屋ふるる」の中橋栄子さん(70)は、通りかかる人に声をかける。

 美容室再開までには葛藤が幾度もあった。「何もなくなっちゃって誰も帰ってこない」。震災後、閖上に戻るつもりはなかった。40年以上前に古里で構えた店舗で、震災当日の朝は卒業式の準備で数人の客が訪れていた。ひと息ついた午後に揺れが襲った。車で避難する最中、津波がすぐ後ろまで迫った。その時の恐怖が頭を離れず、寝付けないまま思わず大声が出てしまう夜もあった。

 改装したばかりの店舗は流され、独立したスタッフも命を失った。失意の中にあったが、避難所の体育館へ被災者の髪を切りに訪れると喜んでくれた。生活は一変したが、「走り続けることしかできなかった」と振り返る。

 「閖上に美容室がほしい」。周囲の声を受けゼロから道具をそろえ直し、平成24年2月、復興仮設商店街「閖上さいかい市場」で営業を再開。そこで7年間仕事をし「あの日より怖いことなんてない」と思えるようになった。そして「もう一度店を構えたい」という思いも自然と沸き、閖上に戻る決断をした。

 閖上は道路や公共施設が次々でき、5月にはまちびらきを迎え、復興が形になりつつある。「今も昔もいつも騒がしいですよ」。中橋さんは笑う。

 店には、常連客から近隣の店の若者、髪を切らずお茶を飲みながら世間話をして帰る住民らが集う。そんな人のため、ドアはなるべく開放しておくようにしているという。

 中橋さんは、その何気ない会話から小さな喜びをもらっている。震災から8年半。紆余(うよ)曲折を経ながらも店に立ち続けられるのは小さな喜びがあったからだという。「周りの応援が自分を奮い立たせている」。震災前よりも感謝することが増えた。(千葉元)

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