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【都市災害から守る 上】子供が被災、親は…巨大地震備え、学校手探り

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 1列に並んだ保護者が子供の名前を告げる。教諭は保護者が署名をするのを確認、児童を呼んで引き渡す。「さようなら」。親子は笑顔で手をつなぎ、教室を出る-。

 今年5月中旬、災害発生を想定して近畿の公立小学校で土曜参観後に行われた「引き渡し訓練」。流れ作業のように整然と進む光景を見て、ある母親はこんな不安を口にした。

 「職場にいるときに大地震が起きたら、その日のうちに学校へ来られないかもしれない。そうしたら、子供はどうなるんだろう」

 平成30年6月18日午前7時58分。大阪府北部を震源に、マグニチュード(M)6・1、最大震度6弱を観測した大阪北部地震の発生は、通学路に子供たちが列をなす登校時間帯だった。

 学校側は、教諭が全員の自宅に電話して安否を確認するなど対応に追われた。すでに子供を送り出した保護者は、不安を募らせ、通勤途中だった保護者は交通手段や通信手段を断たれ、混乱が広がった。

 学校からのメールはなかなか届かず、学校に電話してもつながらない-。

 30年以内に発生する確率が70~80%とされるM8~9級の南海トラフ巨大地震では、当日中に帰宅できない帰宅困難者は最大約146万人と想定される。大阪北部地震の比ではない混乱になることは確実だ。

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 保護者と連絡が取れなかったり、学校へ誰も迎えにくることができなかったりする子供はどうなるのか。

 大阪府教育委員会の「学校における防災教育の手引き」では、引き取り者がいない子供には必ず職員が付き添うことが記されているが、その状況が長期間にわたった場合の対応については示されていない。「災害規模や現場の実情に応じてそれぞれの学校で対応してほしい」。担当者はこう説明する。

 一方、東日本大震災を経験した東京都では、帰宅困難者対策として条例で就業者を3日間程度、企業などにとどめることを規定。都教委は災害時の対応をまとめたマニュアルで、児童・生徒を保護者に引き渡すまで3日間程度、学校で保護することを原則とし、水や食料も備蓄されている。

 「学校によって対応がまちまちになるのはいいことではない。保護者が迎えに来るまでは学校で責任を持って子供を預かることを明記するなど、ガイドラインをもう少し踏み込んだ内容にしてもいいのでは」。NPO法人「日本こどもの安全教育総合研究所」の宮田美恵子理事長は大阪府の現状についてこう指摘する。

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 課題はまだある。

 地震で大阪府高槻市の小学校のブロック塀が倒壊し、女児(9)が死亡。文部科学省は発生直後、全国の学校にブロック塀の安全点検を依頼し、約232億円の予算で、安全性に問題のあった約1万2600校の改修や撤去を進めている。

 大阪府内では、ブロック塀のある府立高校・支援学校136校のうち9割超で耐震面に不安があることが分かったが、現時点でも65校が未改修だ。「ブロック塀は頑丈だという認識で創立から数十年間そのままというところも多いが、次の地震に耐えられる確証もない。急ピッチで撤去し、軽量なフェンスに切り替えたい」。施設財務課の担当者は危機感を募らせる。

 大阪北部地震から、何を学ぶべきなのか。

 京都大防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)は「今回の教訓だけをみていては、次に本当に大きな地震が起こったときには役に立たないかもしれない」と警鐘を鳴らす。

 東日本大震災で被災した大川小(宮城県石巻市)では津波到達直前まで校庭から避難せず、児童74人と教職員10人が死亡・行方不明になった。南海トラフ巨大地震でも、エリア一帯が大規模火災に見舞われて校庭も危険な状態になり、学校外に避難しなければならないなどの事態は起こりうる。どこへ子供たちを誘導すればいいのか。

 「そういう事態が起こりうることを一度でも考えたことがあるだろうか。今後、今回の100倍、千倍ものエネルギーの地震が起こる可能性は十分にある。規模の小さな過去の災害だけを念頭に置かず、その先を見なければならない」

 交通網のまひ、帰宅困難者への対応、ライフラインの復旧…。災害に襲われた都市で起きる問題を改めて突きつけた大阪北部地震。社会は、貴重な経験を生かせているのか。

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