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【居合道不正】剣の最高位、カネで…範士合格に計650万円要求  審査側は「誠意や」

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居合道と剣道の様式など
居合道と剣道の様式など

 全日本剣道連盟(全剣連)の「居合道(いあいどう)」部門で、段位・称号取得の際に金銭授受が横行していた実態が表面化した。「剣による人間形成」を旗印とする組織で、“肩書”が売買されていた格好だ。内閣府に提出された告発状などからは、既得権益におぼれた審査側と、名誉欲に走る受審者とのいびつな共存関係が浮かぶ。

「私ももらった」

 「誠意やないか。カネやないか」

 平成24年3月。告発状によると、関西地方に住む連盟会員の男性は、居合道の称号で最高位の「範士」審査を目前にして、そう迫られた。相手は全剣連の専門委員会「居合道委員会」の委員で、要求額は合計650万円。委員長や自身にそれぞれ100万円、残りの委員にも50万円ずつ-という内訳だった。同委員会は競技人口の少ない居合道の普及や振興などを一手に担っており、当時は委員が範士の審査員も兼ねる状況が続いていた。男性はこうした慣習に反発し、支払う意思がないことを伝えた上で、八段範士となっていた人物らに相談した。

 ただ、期待するような反応は返ってこなかった。

 「お金はかかるものだ」「私も(審査時に)お金をもらったことがある」

 さらには「口に出してはいけないものがある。墓場まで持っていくもんや」との“警告”まで受けた。

 男性は25年、全剣連に不正合格の実態調査などを求める嘆願書を提出したが、動きはなかった。

 「要するに上納金」「先輩方が白いと言ったら白、黒いと言ったら黒だ」

 連盟側からは、事あるごとに嘆願書を取り下げて事態収拾を図るよう暗に迫られたという。

数人で全体統制

 審査を受ける側も、審査員らにあからさまな接待を繰り返していたとされる。

 関係者によると、料亭やホテルで宴席を設けたり手土産を持参したりするのは「常識」になっていた。全国各地にある審査員らの道場に出稽古に向かって面識を得たり、地元に有力者がいる場合は車での送迎を買って出たりするケースなどもあったという。

 不正合格が横行した背景について、全剣連は昨年の実態調査で「居合道の審査は主観的要素が占める割合が多く、審査員の知遇を得ることが有利と考えられていた」としている。

 居合道委員に就けば、遅くとも数年後には審査員も兼ねるようになる仕組みで、受審予定者は接待をすべき相手を容易に選別できたといい、調査では「指導的立場にある数人が居合道全体に有形無形の統制を及ぼす状況をもたらした」と結論づけた。

「雲の上の存在」

 全剣連などによると、今年6月現在で八段は全国で約200人、範士まで持つのは約50人。審査は八段が年2回、範士は年1回に限られ、毎年の合格者は数人程度の狭き門だ。

 関東地方に住む七段で教士の男性は、八段や範士の有資格者を「多くの会員から尊敬を集める雲の上の存在」と評する。その上で「そんな人たちが、実力ではない形で今の地位に上がったり、その地位を利用したりして金を得ていたとすれば残念だ。命をかけて邁進(まいしん)してきた道が、汚されてしまった」と嘆いた。

居合道 剣道の「立ち会い」の対義として、不意の襲撃などに応じて座った状態から刀を抜く抜刀術を武道化したもの。剣道における昇段審査の実技科目は主に1対1の実戦形式だが、居合道では全日本剣道連盟が定める内容の「形」を制限時間内に披露する。個人による演武のため、防具などは着用しない。ルールブックにあたる「居合道称号段位審査実施要領」では、審査員は受審者の心の落ち着きや気迫、風格などを総合的に判断すると規定している。

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