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【金曜討論】性犯罪の厳罰化 「悪質犯罪、野放しに」周藤由美子氏、「重罰化では防げない」宮田桂子氏

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性犯罪の厳罰化 「悪質犯罪、野放しに」周藤由美子氏、「重罰化では防げない」宮田桂子氏

金曜討論更新

 法務省の有識者会議「性犯罪の罰則に関する検討会」が今月から本格的な活動を始めた。“魂の殺人”と呼ばれる強姦(ごうかん)罪の法定刑が強盗罪より軽いことが議論の発端だ。「刑法が制定された明治時代の性差別の名残」「加害者の(被害者に対する)抑圧度合い」などが理由とされるが、罰則以外の論点も話し合う。性犯罪への厳しい対処を求めるフェミニストカウンセラーの周藤由美子氏と、刑事弁護の立場から慎重な姿勢を示す検討会委員の宮田桂子弁護士に聞いた。(池田証志)

 ≪周藤由美子氏≫

被害者の気持ち理解を

 --強姦罪の最低刑は強盗より軽い

 「『被害にあう前の自分は死んでしまった』『こんなことならあのとき死んでいればよかった』と話す性暴力被害者は多い。強姦罪の法定刑を強盗罪と同じかそれ以上に引き上げることは『厳罰化』ではなく、当然のことだ」

 --強姦罪の構成要件である「暴行脅迫」の程度を低くすべきか

 「『被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度』の暴行脅迫が要件になっているために、被害者がどれだけ抵抗したかが問われ問題とされる。突然襲われてショックで頭が真っ白になり、のどもはりつき声も出せない、体も動かないこともよくある。顔見知りからの被害者も多いが、そこに力関係があると逆らうことはできない。被害者が抵抗できない状況で行われる悪質な犯罪が、現行の規定では処罰されずに野放しになっている」

 --強姦罪の対象となる範囲は

 「男性や性的マイノリティーの被害者も対象となるようにすべきだ。また、配偶者からの強姦についても、免責されないことを明記すべきである。肛門や口などへの挿入行為について、強姦罪と同様の刑、あるいは強制わいせつ罪より重い刑で処罰することも検討してはどうか」

 --被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪化」も論点の一つだ

 「父親から強姦された幼い子供がいても、告訴権者となる母親が夫の暴力が怖くて訴えられないということもある。また、告訴を取り下げるように被疑者の弁護人から執拗(しつよう)に示談を申し入れられ、それが苦痛だったという被害者も少なくない。これらは親告罪であることの問題点である」

 --被害者が告訴しない理由は

 「『事件をなかったことにしたい』『そっとしておいてほしい』という被害者も多い。加害者が顔見知りの場合は訴えにくい。捜査や裁判の過程での二次被害に再び傷つくこともある」

 --被害者のプライバシー保護は

 「訴えるか訴えないかは本人の意思を尊重すべきだ。訴えた場合には、二次被害を防ぐ対策を講じる必要がある。非親告罪化する場合、必ず並行して被害者の意思や自己決定の尊重、プライバシー保護の対策を整えてほしい。もっとも、捜査や公判の実務として被害者が立証作業に協力しなければ公判を維持することは困難と思われる」

 --被害者が「性交同意年齢」(13歳)未満であれば、同意の有無にかかわらず強姦罪が成立する。その引き上げは

 「中学生が被害にあった事件で『やめて』と頼んだが、服も破れていなかったし、強い抵抗を示していなかったとして無罪判決が出されている。中学生に対して、大人と同じような厳しい暴行脅迫要件を要求するのは酷ではないか。引き上げは必要だ」

 ≪宮田桂子氏≫

犯罪防止、更生策が先だ

 --強姦罪の法定刑を重くすべきか

 「強姦罪は、誰もがその行為を犯罪と評価できる強盗罪と違い、加害者と被害者の主観の齟齬(そご)から犯罪性に疑問が生じる場合などがあり、法定刑の下限が強盗罪より軽いのは理由がある。これを重くする主張には反対だ。また、判決傾向が重くなっているとはいえ、法定刑の幅に収まっており、上限を上げる必要性も疑問だ」

 --犯罪の抑止効果については

 「重罰化で犯罪が減る実証データはない。死刑で殺人が防げているか。性犯罪は、加害者の女性観や性のとらえ方のゆがみが原因のケースが多い。犯罪防止のためには、性表現への規制や薬物治療・心理療法などの治療をはじめ、先にすべきことがある」

 --刑務所内での更生プログラムは

 「それを企画・実施する刑務所の職員・予算などは絶対的に不足しており、十分な効果を期待できない。長期の拘禁により、被害者や裁判への怨嗟(えんさ)の感情や、社会への不適応を大きくする危険を認識すべきだ」

 --非親告罪化も論点だ

 「被害者の考え方は百人百様だろう。事件発覚時の周囲の反応は予想できない。性被害を受けたと知れば恋人が別れを切り出すかもしれないと恐れる人もいるだろう」

 --被害者が協力しなければ捜査、起訴できないという意見も

 「例えば、連続レイプ犯が別件を自白するケースのように、被害者の被害申告なしに事件が発覚する場合があり、写真などから客観的事実が裏付けられれば起訴し得る。そういうとき、被害者が『放っておいてくれ』と言う権利もあるはずだ」

 --性交同意年齢については

 「国連勧告もあり、引き上げるべきでは。法律上女子が婚姻できるのは16歳以上だから、16歳だろうか」

 --強姦罪の対象を広げるべきか

 「肛門性交は強姦罪にならないことに驚く人もいるだろう。男性を強姦罪の被害者にできるその点の法改正は合理的と考える。親などの家族が加害者となる類型は、性犯罪の問題だけを取り出すのでなく、虐待した家族へのカウンセリングなども含め、虐待への総合的な対応の中で検討すべきだろう」

 --暴行脅迫要件の緩和は

 「検察側に主張・立証の責任があり、弁護人はそれに対する疑問を示すのが刑事裁判の基本構造だ。この点を緩和して検察側が『被害者の同意なく性交した』という主張と、『被害者の合意がなかったという供述』だけで立証十分ということになると、実質的には被告人・弁護人に立証責任が転換されることを意味し、憲法上も問題だ。セクハラなどの民事事件と、国家の刑罰権の発動である刑事裁判とは理念も性格も異なる」

【プロフィル】周藤由美子

 すとう・ゆみこ 昭和38年、島根県出身。50歳。京都大学卒業。フェミニストカウンセラー。平成7年から女性団体や行政、大学で相談員に。24年から「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」共同代表。

【プロフィル】宮田桂子

 みやた・けいこ 昭和36年、東京都出身。53歳。東京大学卒業後、63年に弁護士登録。第一東京弁護士会所属。元最高裁判所司法研修所刑事弁護教官。日本弁護士連合会刑事弁護センター副委員長。