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サガ・ビネガー、変わり種醸造に活路 「なんでも酢にしてみせる」 佐賀

自社ブランドや受託生産した酢が並ぶサガ・ビネガーの醸造所併設の直販所
自社ブランドや受託生産した酢が並ぶサガ・ビネガーの醸造所併設の直販所

 ■コーヒー、レンコン、アスパラ、ノリ…

 コーヒー、レンコン、アスパラ、ノリ、ソバ、ゴマ…。一見、何の関係もないように見える食材に実は共通点がある。すべて酢になっているということだ。穀類や果物を使った一般的な酢とは違う変わり種の酢を醸造したのは、佐賀市の食酢メーカー、サガ・ビネガーだ。「何でも酢にしてみせる」。そんな心意気で酢を醸し続ける同社には商品化の相談が全国から寄せられている。(九州総局 中村雅和)

 ◆健康酢から

 江戸末期の天保3(1832)年創業のサガ・ビネガーは、半年かけてじっくりと仕込むことで、すっきりとした香りやまろやかな酸味の酢に仕上げる「静置発酵」にこだわる昔ながらの醸造酢で知られている。

 現在、自社ブランドの食酢に加え、全国から受託したさまざまな変わり種酢を醸造している。これまで約70種類以上の食材から酢を醸し、うち約50種類を商品として世に送り出した。多品種少量生産の受託は蔵を取り巻く厳しい環境に適応した結果だった。

 5代目当主の右近雅道社長が会社を継いだ昭和40年代には同じように地域に根差した醸造蔵は多かった。ただ50年代以降、流通網の整備に伴い大手メーカーとの競争が激化する。右近社長は「出荷量やコストで対抗することは容易でなかった」と振り返る。

 そこで、右近社長が打開策として手掛けたのが黒酢や大豆酢、リンゴ酢といった「健康酢」だった。

 50年代後半以降、鹿児島県産の黒酢などが牽引(けんいん)したブームで、酢には単に調味料ではない新たな市場が生まれつつあり、新たに建設した工場で醸造を始めた。ところが需要の伸びは頭打ちになった上に、同業者の進出も相次ぎ、目新しさはみるみる失われていった。

 ◆差別化狙う

 差別化を図るにはどうすればいいか-。

 模索を続けていた右近社長が目を付けたのは県の特産品、タマネギだった。春に収穫する県産の新タマネギは特に甘みが強い。

 「糖分があるということは、アルコール発酵が可能だ」。そう考えた右近社長は佐賀工業試験場にも協力を仰ぎ、すり下ろしたタマネギを効果的にアルコール発酵させる手法や、青臭さを抑える醸造法など、試行錯誤を重ねた。

 そして平成5年、「熟成たまねぎ酢」が完成した。原材料はタマネギだけ。一滴の水も加えず、野菜の水分だけで酢に仕上げた自信作だった。

 ただ、販売は伸びなかった。地方の一醸造蔵の知名度ではPRに限界があったからだ。それでも、続けて「飲む果実酢」を開発するなど技術を磨き続けた。

 ◆全国から相談

 転機の1つが17年に大手商社、三井物産から持ち込まれた果実酢の企画だった。同社九州支社の担当者が過去の商品開発の経緯や技術力を知っていたことがきっかけだった。開発した商品はテレビの通販番組などで取り上げられ、ヒットした。「会社の名前は出ないけれど、収入は経営上の大きな柱になる」(右近社長)と、あくまで自社は黒子だが、受託生産に手応えを感じた。

 さらに追い風が吹いた。23年、全国放送のグルメ番組で「熟成たまねぎ酢」が取り上げられ、知名度が上がった。商品の注文はもちろん、全国から醸造の相談も舞い込んだ。

 右近社長は「来るもの拒まず」の姿勢を貫いた。また、家族経営で小回りが利く体制を武器に100リットル程度の生産にも対応する。数百~1千リットル単位で醸造する場合に比べ、委託側は投資額とリスクを抑えられるメリットがある。

 ◆ノウハウ蓄積

 「こんなもの酢にできるのか、という原料もあったけれど、やってみれば案外何とかなるんですよね」

 社長の三男で、醸造を手伝う右近諭志常務は笑顔でこう話す。

 酢造りと酒造りは原料をアルコール発酵させるまでのプロセスは同じだ。出来上がった液体に、酢酸発酵を終えた「種酢」を加えて熟成させればお酢になる。

 糖分が少ない作物では、砂糖を加えてアルコール発酵を促す。どうしても発酵させられない原料にはアルコールを投入し、成分を浸出させる。原料に応じてどのような手法を採るかは、経験の蓄積で確立したサガ・ビネガー独自のノウハウに基づく。

 さらに複数ある「種酢」からどれを選ぶかも醸造の成否を左右する。通常は、以前に仕込んだ同じ原料の酢を使う。しかし変わり種酢は前例がない。

 諭志常務は「原料の風味などをもとに種酢とのよりよい組み合わせを考える。これも多くの酢を経験しているわれわれだからこそできるということでしょうか」と胸を張る。

 酢は内臓脂肪の減少や、血圧の低下、食後の血糖値上昇を緩やかにするなどの健康効果が注目され、人気が高まる。地方の蔵が作り上げる酢の可能性はますます広がりそうだ。

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