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【デザインで人と人をつなぐ 松岡恭子の一筆両断】「九州の時」を都心の空き店舗で

 あなたにとって「都心」はどんな場所ですか? 働きに行くところ。会合に出席するところ。ショッピングを楽しむところ。自宅では作れない美味しい食に出会うところ。友人との集いに出かけるところ。まだまだありますか?

 新型コロナの影響は、私たちの生活を一変させました。在宅ワークとネットショッピングが日常になり、オンラインイベント参加の気軽さが発見された今、私たちは長い人類の歴史でこれまで存在しなかった特異点を迎えている気がします。そしてこのままでは都心が持っていた役割が薄れていくのではという危機感が湧き上がるようになりました。

 都心はいま、行かなければならなかった場所から、行きたくなる場所をめざす必要があると思います。働く、買い物をする、という「機能」や「消費」ではなく、長い時がつくってきた「文化」や「芸術」こそがその鍵を握っていると思います。その場所、その時にしか出会えないものを求めて、これから人は足を運ぶようになるのではないでしょうか。それが真の交流なのかもしれないと思い始めました。

 福岡・大名は400年前に黒田藩が整備した、戦災を免れたヒューマンスケールな城下町です。九州一の繁華街、天神に隣接しているため、近年では小振りの事務所やショップ、飲食店がひしめく賑わいの絶えない街でしたが、コロナの影響もあり、空き店舗が現れ始めました。それを見てこのままにしていてはいけないと思い、複数の空き店舗の持ち主と短期の賃貸借契約を結び、九州の魅力・誇るべき文化を結び付け新しい交流を生む社会実験「One Kyushu ミュージアム」を行うことにしました。9月から11月まで、毎月11日間開催します。

 文化を取り上げるにあたり、いろいろな専門家の方に声を掛けたところ、焼きもの、音楽、食、茶葉、スイーツ、アートなどその道のプロフェッショナルがこの取り組みに快く賛同、協力くださることになりました。産品は九州のすべての県から月替りで到着します。9月の会場のひとつは佐賀県、長崎県からの品物でいっぱいになります。日本遺産にも「肥前やきもの圏」として登録されている唐津、有田、伊万里、嬉野、武雄、波佐見、佐世保の七つの産地から、400点を超える品々がやってくるのです。もうひとつの会場では、福岡県の八女茶と鹿児島県の知覧茶が紹介されます。九州ではもちろん、全国に名が知られるお茶の産地です。さらにワインの業界で大変評価の高い、大分県の安心院(あじむ)ワインも登場します。10月以降は宮崎県の都農(つの)ワイン、鹿児島県の薩摩切子なども予定しています。

 どちらの会場でも販売は行いません。購入はオンラインサイトを紹介するだけにとどめ、会場ではその産品が辿(たど)ってきた歴史やつくられている環境、手掛けている人の姿や努力を見聞きできる映像や資料を見ていただけるようにします。「共感」「ストーリーの共有」を大切にしたいと考えているからです。会期中の平日は毎日定時にネットで産地と繋(つな)がり、製作風景、作業の現場、ものづくりへの想いなどを紹介してもらい、会場からは質問を投げかけたり、感想を伝えたりとインタラクティブな交流をライブ配信とともに行い録画していきます。心の繋がりが生まれれば、その場での購買以上の長い縁に育っていくのではと期待しています。またそうやって積み重なっていく映像を、One Kyushu ミュージアムのフィルムライブラリーにするつもりです。

 週末、祝日は前述の専門家にお願いし、いろいろなセミナーを企画しています。お茶と焼きものの組み合わせにオリジナルのスイーツを楽しみながら解説を聞く、九州でつくられるワインをその風土とともに学びながら味わう、有名シェフに現代社会の食産業について語ってもらう、温暖化で変化する九州の気候を描く美術家にその問題意識を語ってもらう、などなど多彩です。共通するのは「九州の時」をテーマにしていること。お茶が中国から九州に持ち込まれて900年、ワインが九州の武将に献上されて500年、豊臣秀吉の朝鮮出兵を機に始まった焼きものは400年、と時を辿りながら私たちの暮らす九州を振り返り、そして未来の九州を考える機会になればと願ってこのテーマを考えました。

 複数の会場を訪ねながら、来訪者にはぜひ、まち歩きをしていただきたいと思っています。同じ大名にある書店・ジュンク堂さんには、関連書籍の平積みをお願いしています。大分県の拠点施設であるカフェ「dot.」も会場の一つなので、ひと休みもできます。そしてまちにどのくらい滞在してもらえたか、何度も来てもらえたかなどをITを用いて計測していきます。産地との対話やセミナーもライブ配信し、後日ネットでの視聴も可能にするので、その利用者数も測ります。そういったデータの取得は、同様の取り組みや、これからの都心のまちづくりを考える際の参考になるのではないかと思っているからです。

 いろいろ構想するうちに、これを福岡だけで行うのではなく、九州の各県庁所在地でリレー開催していってはどうかと思うようになりました。どの都市も中心市街地に空き店舗があるはずです。そこでもこの実験を行い、コンテンツももっと広げていくと、回を重ねるごとに「九州は一つ、One Kyushu」が近づいてくると思うのです。そのためこの秋の会期中に、各地のまちづくり活動家とのオンラインディスカッションも公開で行う予定です。

 この社会実験が、人の心を豊かにするこれからの都心の役割の扉を開けたらと願っています。詳細はホームページ(https://onekyushumuseum.com/)に記載しています。関心をお寄せいただけたら幸いです。

                  ◇

【プロフィル】松岡恭子

 まつおか・きょうこ 昭和39年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学工学部卒。東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了。建築家。設計事務所スピングラス・アーキテクツ代表取締役および総合不動産会社、大央の代表取締役社長。NPO法人福岡建築ファウンデーション理事長も務め、建築の面白さを市民に伝えている。今年6月より、一般社団法人都心空間交流デザイン代表理事。

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