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【台北駐福岡経済文化弁事処長(総領事)陳忠正の一筆両断】特別編 中国の「香港国安法」、次のターゲットは恐らく台湾

 中華人民共和国の全国人民代表大会常務委員会は6月30日、「香港特別行政区国家安全維持法」(以下、「香港国安法」)を全会一致で可決し、施行された。「一国二制度」を終結させたのと同じであり、香港と国際社会への公約に著しく反している。同法で列挙されている罪名は、香港の人々が本来、享受していた高度な自治を抑圧するものとなる。しかも、適用範囲は香港のみならず、全世界を網羅しており、まるで天朝(中華)帝国が世界の臣民に向けて発出した「天朝律令」のようであり、民主主義、人権、自由といった普遍的価値観を著しく損なう。台湾は国際社会に対し厳正に非難し、中国の覇権拡張を共同で反対し、民主主義と自由の体制を守っていくよう呼び掛けていく。

 一、「香港国安法」の意味と政策決定の思惑

 (一)「香港国安法」が列挙する罪名により、香港反政府デモでの民主派団体『オキュパイ・セントラル』(占中)、「『逃亡犯条例』改正反対運動」(反送中)および今後の類似した抵抗運動の発生を阻止、香港の民主勢力の力を動揺させ圧迫

 同法が列挙している主な4つの罪名は、国家分裂罪、国家政権転覆罪、テロ活動罪、外国または域外勢力と結託し国家の安全を害する罪である。

 その内容は、抽象的であり中共の解釈に任せるもので、いずれもかつて発生した「香港の選挙制度の民主化を求めた香港反政府デモの際の『オキュパイ・セントラル』」(占中)や「『逃亡犯条例』改正反対運動」(反送中)の経験から、香港のために制定したものである。中共は対処的な立法化により、中共が香港自治への介入、関連する人事権掌握の正当性、武装警察の香港進駐への法的根拠を付与し、それにより香港の民主勢力を効果的に威嚇し、打撃を与え、動揺させている。

 (二)同法は効力が全世界へおよび、国際社会と香港の繋(つな)がりを遮断し、中共の権威主義による管理・統治を強化

 同法の第38条では、香港に永住権を持たない者が、香港特別行政区以外で同法に規定されている犯罪行為に抵触した場合も同法が適用される。これは、治外法権を世界の隅々まで拡大していくのと同じであり、国際社会の香港に対する懸念と支持を断ち切ることにより、萎縮効果をもたらし、中共の権威主義体制を盤石にするものである。

 (三)中共の国家安全部門は香港政府の「太上皇(実際上の最高権力者)」のようであり、台湾は恐らく中国の次のターゲット

 同法の「国家分裂罪」についての定義に、香港および中国の「その他のいかなる部分」と名指ししている。これは中国が称する「香港独立」と「台湾独立」勢力の合流に極力ダメージを与えると共に、国家安全の法律に両岸関係を嵌(は)め込んでいるのが明らかである。

 同法の実施細則では、外国および台湾の政治的な組織やその代理人に対し香港に関わる活動について資料を提供するよう要求しており、台湾および外国政府、代理人、政党いずれもが適用対象となっている。香港政府の国家安全部門が、国家の安全に危害を及ぼす犯罪行為に抵触、関与、協力している可能性があると判断しさえすれば、警察権により任意で捜索、秘密傍受、資料提出要求、関連財産の凍結または没収などができ、要求通りにしない場合、罰金および監禁に処することができる。

 これは人身の自由、財産権、プライバシー、通信の自由、業務上の秘密を著しく侵害している。しかも台湾の駐香港弁事処の現地職員は、台湾の代理人と見なされる恐れがあることから、同弁事処のために働くことができなくなり、台湾政府の人員も派遣駐在できない状況の下では、同弁事処の業務停止を余儀なくされる恐れがある。台湾は、恐らく中国の次のターゲットとなるであろう。一方、その他の国々の『領事関係に関するウィーン条約』で保障されない在香港機関あるいはその代理人も難を免れないであろう。

 二、国際社会への呼び掛け

 (一)一党独裁の中国が国際公約に背き、自国の思惑により国際秩序を再構築しようとする野心が表面化

 中共が強硬に進めてきた「香港国安法」は、1984年の『中英共同声明』に著しく違反している。これは香港の「一国二制度」および高度な自治を破壊するものであり、香港や国際社会への公約にも反しており、規範を基本とする国際秩序を中国が破壊する意図も露(あら)わにしている。

 また、「香港国安法」は言論により罰せられる罪であり、国家安全のための罪は際限がない。さらには法執行ができる対象者は全世界の「いかなる人」および、香港籍の船舶または旅客機の乗客にまで拡大していくことになり、国際法の基本原則に著しく違反している。これらは、国内法の効力を全世界へと拡張していこうとする中国の野心を十分に表している。

 (二)中国の権威主義による政治体制は民主主義と人権を蹂躙(じゅうりん)しており、専制主義と民主主義は相いれないことを証明

 中共が強行実施した「香港国安法」は、民主主義による法制度と人権を蹂躙しており、一党独裁の専制政治による中国と自由世界は避けることのできないイデオロギーの争いを表面化させている。台湾は国際社会に対し、中共の独裁政権の本質を見極めるとともにに、理念の近い国々が共同で反対するよう呼び掛けるものである。

 (三)国際社会が対抗措置をとらなければ、中共は専制体制をより一層押し出し、国際社会の政治・経済秩序を主導するであろう

 中国は迅速に拡大した政治・経済面でのシャープパワーにより、常に国際社会に対し、イデオロギーの浸透と発出を行っている。今年は新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延(まんえん)に乗じて国際社会に対し、中共の優れた体制が感染症対策の成功に役立ったと喧伝(けんでん)した。それに続き「香港国安法」も直ちに制定し、権威体制により香港の「一国二制度」を全面的に破壊した。中共は世界の民主主義、自由、人権といった普遍的価値観を徐々に侵食している。国際社会が引き続き座視したままならば、最終的には国際的な政治、経済は中共が主導することになるであろう。

 (四)台湾はアジア地域における民主主義を守る重要な地位を備えている。国際社会とともに香港の人々を応援し、台湾を守っていきたい

 国際社会は中共の権威主義体制とイデオロギーの海外拡張を直視すべきである。民主主義の台湾の生存と発展は、地域の平和と安定の力であり、世界の民主主義陣営の最も重要な防御線の一つでもある。台湾は国際社会に対し、中共の覇権拡張に共同で反対し、台湾の民主主義体制を力を合わせて守り、独裁政権の中国による破壊を容認してはならないと呼び掛けていきたい。

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【プロフィル】陳忠正

 (ちん・ちゅうせい) 1963年、台湾彰化県生まれ。台湾国立政治大学外交学科卒業。同大東亜研究所修士号取得。90年に台湾外交部(外務省に相当)に入部。国際組織局事務官や領事局秘書室主任、台北駐日経済文化代表処行政組組長などを経て、2018年から台北駐福岡経済文化弁事処長(総領事)。趣味はハイキングやキャンプなどで、休日はアウトドアアクティビティを楽しむ。

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