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【雇用のプロ 安藤政明の一筆両断】新型コロナ…事業所ごとに異なる雇用維持

 連日、新型コロナウイルス感染に関する報道ばかりです。特に3月下旬から感染者数が急激に増加し、深刻な状況が続いています。ただただ早期収束を祈るばかりです。

 3月31日、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の影響での解雇や雇止めが千人以上に及ぶとの見通しを公表しました。新卒の内定取り消しは58人が確認されているとのことです。世の中の流れが一気に変わりました。今後は派遣切り、雇止め、解雇などのリストラが加速することが容易に想像できます。

 4月1日、国会で安倍晋三首相は「すでに雇用調整助成金制度の大幅な拡充や必要な対策を直ちに実行してきました。強い志をもって経営者の皆さまにはこの危機を乗り越えていただく」と語りました。経営者には無責任に聞こえる発言ですが、何かしたくても、どうしようもない状況であることも理解できます。それでも「マスク2枚」については何と言えばいいのでしょうか、笑うしかありません。新型コロナウイルス感染収束の兆しでも見えなければ、経営者だって先が見えずどうしようもないのです。

 政府が何より重視することは「雇用の維持」です。政府が雇用対策の中心に据える雇用調整助成金(雇調金)とは、売り上げが前年より一定割合以上減少し、労働者を退職させずに休業させ、休業手当を支払った場合に助成金を支給するというものです。4月1日から6月30日までを「緊急対応期間」と位置づけ、受給要件を緩和し、助成率や限度日数の優遇措置がとられています。

 ここで冷静に中小企業の経営者の立場で考えてみたいと思います。労働者にさせる仕事が減少し、経営的に危機的な状態にあります。余剰人員を整理できれば、その分、給与や社会保険料負担はなくなります。雇調金を利用すれば、労働者を休ませ、休業手当を支払うことで、負担の大部分が補填(ほてん)されます。社会保険料などの負担は変わりませんが。さて、どちらをとるべきでしょうか。

 雇調金を受けられても、事業所が負担した費用の全部ではありません。プラスではなくマイナスです。実際に助成金が支給されるまで数カ月かかりますから、その間の資金繰りの問題もあります。結局、雇調金を利用して雇用を維持するためには、少なくとも次の一つ(二つ以上を半分くらいずつ満たす場合も含めてよいかもしれません)以上の前提条件が必要だという認識が必要です。

 一、一時的に休業させるが、その後に労働力が必要となることが一定以上の確率で見込まれること

 二、近い将来、雇用する労働者の総賃金などを支払える水準以上の売り上げ増大が一定以上の確率で見込まれること

 三、十分な資金力があり、現状が一定期間継続しても破綻する可能性がないこと

 資金力がある大企業が雇調金を利用して休業させるのは、基本的に前提条件があるからです。一つでも前提条件を満たすのであれば中小企業も雇用を維持すべきでしょう。しかし残念ながら前提条件を全く満たせない事業所が少なくないという現実があります。

 政府は「雇用の維持」を最重要視しつつ、「雇用の質」は完全に無視しています。ある労働者数50人の事業所が、10人を退職させ、対前年比では少ない売り上げでも40人なら事業が維持できるとすれば、40人の雇用が守られる計算です。しかし10人ずつ交互に休業させながら雇調金を利用して雇用を維持したとしても、売り上げが回復しないままであれば、いずれ破綻します。結果、50人全員の雇用が失われます。机上の計算ではありますが、「とりあえず雇調金」が果たして吉と出るか凶と出るか、事業所によって異なります。

 「先を読む」ことはあまりにも難しすぎます。読めたと思っても、その通りになる保障はありません。経営者は最悪の事態から最高の状況までさまざまな予測をしつつ、最善の策を考え、実行しなければなりません。経営悪化の局面においては最悪の事態を回避することが最重要課題になります。

 「雇用を守る」と言うと聞こえがよいことは間違いないでしょう。しかし、それなりの根拠もなくそう言うのであれば、それは労働者が不安がらないよう優しい気持ちから出た言葉かもしれませんが、結論として大きな顰蹙(ひんしゅく)を買う無責任な言葉となる可能性もあるわけです。

 経営者は孤独です。中でも一般の中小企業の経営者は、孤独に加え、結果について個人的に全責任を負います。経営判断は、その場しのぎであってはならず、雇用の維持のためにも「事業を維持」しなければならないのです。

 政府は「できないこと」や「しないこと」を、さもやっているかのように言ってはいけません。期待させておいて突き落とすのは残酷すぎます。もっとも雇用に関して政府には最初から何も期待していません。ただ邪魔をしてほしくないだけです。本当に中小企業のことを考えるのであれば、解雇規制緩和について真剣に検討していただきたいと思います。どうせやらないでしょうけど。

                  ◇

【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。

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