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【ハイ檀です!】(180) ラム肉、万歳

オーストラリア産の熟成ラム肉
オーストラリア産の熟成ラム肉

 ボクにとっての大ご馳走は、ラム肉の料理である。少々漠然とはしているが、要は羊の肉が大好きなのである。この原因は、明らかに父の影響。作家活動を再開した父は、再婚した母とボクを連れ、福岡の綱場町から東京の練馬区の建売住宅へ転居。理由は、父が小説に専念する為であった。東京には多くの出版社が集中していて、書き終えた原稿を直ぐに編集者へ見せられるのがメリット。また、父の師匠の佐藤春夫先生からは、是非東京で闘いなさいと厳命され、居を東京に移す決断をしたようだ。

 そんなことから1948年、ボクが5歳を迎えた時、東京での暮らしが始まった。作家生活に没頭し始めた父は、殆どと言ってよいほど家には帰らず、精力的に多くの作品を執筆。51年『真説石川五右衛門』『長恨歌』により、第二十四回直木賞を受賞。またその年には、当時大流行作家であった坂口安吾氏が我が家に舞い込み、隠遁生活を数カ月送られた。理由はともかく、安吾さんの印象は、スケールの大きい大作家としか表現出来ない。またこの年の12月、父は南氷洋の捕鯨船に乗り込み、半年間の取材活動を行っている。父にとってこの時期、作家として重要な時であっただろうが、少しの間作家活動からも家族からも離れたい願望があったものと理解する。

 滅多に家に帰ることがなかった父も、次々に生まれてくる弟や妹の顔を見る度、いつもの厳しい表情から破顔一笑、さあご飯を食べましょうと、自ら料理を始めることが多かった。父の得意な料理は羊の料理で、刷羊肉と●羊肉。つまり、刷羊肉(サオヤンロー)は羊肉のシャブシャブであり、●羊肉(カオヤンロー)が北海道でよく食べられている、ジンギスカン鍋のような焼肉である。こうした料理は、戦前の満州から内モンゴルの辺りで覚えて来たのであろう。火鍋子(ホーコーズ)と呼ぶ真ん中に煙突のような筒が立ち上がった鍋に、炭を焚べて湯を沸かし、寄せ鍋のように野菜を投入し、そこに薄切りにした羊の肉を箸でシャブシャブのようにして味わう料理。

 勿論、肉や野菜につけるタレは父の特製。先ず、ピーナッツ、クルミ、マカダミアナッツ、カシューナッツ、炒りゴマなどをスリバチで細かく潰す。そこに、ニンニク3片、ショウガ親指大を下ろし入れ、ニンジン、タマネギも同様に下ろし金で擦って加える。全部合わせたら、酒、味醂、醤油を投入して更に擂り粉木でゴロゴロする。これが細かくなったら鍋に移し、火を通す。味の濃さは、やや塩っぱい程度で甘さは適宜に。注意点は強火にすると焦げ付くし、沸点に達したら熱いタレが飛び散るのでご用心。

 このタレを器に入れ、刻みネギと今流行りのパクチーを刻んで薬味として加え、シャブシャブした羊の薄切りや、鍋の野菜を浸して味わう。もし濃ければ、鍋の水分で薄めればよい。また、辛いのが好みであれば、青唐辛子を刻み入れてもよいし、タレを煮る際に一味唐辛子などを入れ好みの辛さにする。胡椒風味が好きな方は、これも自分の好みに応じて投入。今やポピュラーなったジンギスカン鍋も、あの独特の鍋を用いてもよいし、すき焼き鍋のような平な鍋でも結構。モヤシ、ニラ、キャベツ、タマネギなどを同時に焼きつつ羊の肉も一緒に焼き、シャブシャブ用に作ったタレで味わう。

 問題は羊の肉、今の方々は恵まれていて羨ましい限り。デパートやスーパー、インターネットでもラム肉やマトンが簡単に手に入る。しかも、国産のサフォーク種の肉や高級な羊肉も…。しかし昔は、羊を扱っている問屋さんを探し出し、1、2キロの単位で調達。それも食肉用のものではなかったから、固いは臭いはで往生したことも笑い話。

 福岡の方々は、もつ鍋は食べても羊の肉を食べる習慣がないのか、手に入れ難い。ラムのスライスだけはデパートで買えるが、他の部位は売ってない。そこで東京に行った折、好みの部位を調達するのだが、先日熟成ラムの太腿を1本購入。塩、コショウ、ニンニクを擦り込んで寝かせ、フライパンで表面を焼き、後は180度に熱したオーブンで30分強ロースト。後は、肉を薄切りにして味わう。肉の芯の周辺が赤い程度がベスト。香草、タマネギ、ニンニク、トマト、レモン、オリーブ油を加えたソースをかけると、クリスマスに絶好のラム肉料理となる。

                   ◇

【プロフィル】だん・たろう

 1943年、作家・檀一雄氏の長男として東京に生まれる。CFプロデューサー、エッセイストとして活躍し、「新・檀流クッキング」などの著書多数。妹は女優の檀ふみさん。

●=火へんに考

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