PR

地方 地方

吉野さんノーベル賞も 日本企業「創造の場」を失う 米国に追随し基礎研究離れ

 携帯電話やパソコン、電気自動車などに使われるリチウムイオン電池を開発した研究者3人が今年のノーベル化学賞に輝いたが、その1人が藤沢市に住む旭化成名誉フェローの吉野彰さん。日本企業が基礎研究で世界をリードした時代の成果だ。だが、基礎研究という「創造の場」が企業から失われて久しい。

 受賞対象となる吉野さんの研究は昭和56年に始まった。「元々、電池とは一切関係のないテーマだった」と吉野さんは言う。

 ◆学会発表の主役

 きっかけは筑波大名誉教授、白川英樹さんが52年に発見を報告した導電性高分子「ポリアセチレン」との出合いだ。白川さんは平成12年のノーベル化学賞を受賞する。「電気を通すプラスチックという、とんでもない新素材。何に応用するのが最適かを考え、用途を調べた」

 目標を「電池の電極への応用」と定めて研究する中で、昭和60年に、より高性能の炭素材料にたどり着く。ここまでが基礎研究で、その後は製品化に向けた研究を進め、平成4年の発売に至る。

 「当時は企業の基礎研究が華やかなりし頃。新しいことに挑戦するんだという空気に満ちていた」と京都大教授、山口栄一さんは言う。自身も昭和54年から約20年間、NTTで半導体の基礎研究に携わった。

 研究で企業は大学を圧倒。学会発表の主役も企業の研究者だった。「大学の先生の発表内容は、僕らが5年前か10年前にやった研究ばかり。こちらが真剣勝負の質問をしないので、彼らもそれが分かっていて情けないと思っていたそうだ」

 ◆論文は半減

 山口さんによると、その頃、研究者1人当たりの年間の研究費は企業が2千万~3千万円なのに、大学は1桁少ない200万~300万円。「『なまくら研究』しかできないのは仕方なかった」

 この時期の企業研究者のノーベル賞受賞が、21世紀に入って続いている。島津製作所シニアフェローの田中耕一さんは、62年に発表したタンパク質の質量分析技術の開発で平成14年の化学賞を受賞。26年の物理学賞は、青色発光ダイオードの発明で赤崎勇さん、天野浩さん、中村修二さんの3人に贈られた。

 赤崎さんは昭和39年から名古屋大教授となる56年まで松下電器(現・パナソニック)の東京研究所(川崎市)に在籍。現在、米カリフォルニア大教授の中村さんは54年に日亜化学工業に入社し、実用化を成し遂げた。

 ところがバブル崩壊後、経営で短期的な成果を重視する傾向が強まり、企業は成果が出るまでに時間がかかる基礎研究から撤退を始める。米国式の「株主重視経営」が広まった時期でもある。

 研究所の縮小、廃止が相次ぎ、所属していた研究者は大学や韓国、中国の企業に流出。企業からの論文は減り続け、今やピークだった平成8年の半分程度となっている。

 企業の基礎研究離れは米国が先行した、と文部科学省科学技術・学術政策研究所の総括主任研究官、富澤宏之さんは言う。「基礎研究は産学連携で、という世界的なブームがあり、米国の企業は大学を頼るようになった。日本もそれに追随しようとしたのではないか」

 ◆見直しに20年

 米国経済はIT、医薬品といった産業を中心に復活を遂げ、日本経済は長い停滞期に突入する。産学連携はほとんど進まなかった。当時の日本の大学は産学連携の経験が乏しい上に、連携に必要な仕組みも整備されていなかったからだ。

 明暗を分けたもう一つの理由として山口さんは、米国のようなベンチャー企業育成制度がなかったことを挙げる。

 スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ(SBIR)という制度で、昭和57年に開始。連邦政府が外部に委託する研究開発費の3%前後を割り当て、毎年計約2千億円の資金を提供する。

 応募して採択されると最大15万ドル、計画を練り、実現可能と判定されるとさらに最大150万ドルがもらえ、投資家も紹介される。製薬大手のギリアド・サイエンシズや半導体大手のクアルコムなど新興企業が育つ苗床となった。

 日本にも同様の制度が平成11年にできたが、「単なる中小企業支援策にすぎなかった」と山口さん。支援を受けた企業の代表者が博士号を持つ割合は7・7%と米国の74・0%にはるかに及ばず、大学発の最先端の知を生かす仕組みになっていなかったのだ。

 20年たった今年、ようやく内閣府が「日本版SBIR」の見直しに着手。研究で生まれた技術を基に社会課題の解決や新産業の創出を目指すベンチャー企業を支援する方向だ。

                   ◇

【用語解説】リチウムイオン電池

 小型軽量で、充電して繰り返し使える2次電池。リチウムの化合物を正極、炭素材料を負極に使う基本構造を吉野彰さんが確立した。パソコンやスマートフォンなど身の回りの電気製品に広く使われる。ため込める電気の量が多く、繰り返し使っても容量が少なくなりにくいのも利点で、モーターで駆動する電気自動車のほか、国際宇宙ステーションにも搭載された。一方、電解液には引火性のある有機溶媒が使われ、過充電や回路の短絡による発火事故も報告されている。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ブランドコンテンツ