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【雇用のプロ 安藤政明の一筆両断】「法」が「道徳」に優先、東須磨小事件への憂い

 神戸市立東須磨小学校の教諭同士のいじめ事件は、そのすさまじさに唖然(あぜん)としました。報道によると、毎日の平手打ちや蹴り、熱湯入りのやかんを顔につける、激辛カレーを目にこすりつける、服を破る-などをされたと、被害教諭が訴えているようです。事実だとすれば、いわゆるパワハラのレベルをはるかに越えた刑事事件です。

 加害教諭は4人で、被害届が出されてからは、有給休暇を取得し、出勤していません。ここで黙っていなかったのが神戸市民です。有給休暇中には給与が支払われます。その原資は、市民が納めた税金なのですから、納得できないのも当たり前でしょう。

 神戸市民の声を重く受け止め、市議会が動きました。「重大な非違行為があり、起訴される恐れ」がある職員は休職させることができ、休職中の給与は支払われないという条例改正を議会で諮ったのです。10月29日に賛成多数で可決され、翌30日に施行されました。この日以降の給与はストップとなりました。

 「不正義がただされた」と溜飲(りゅういん)を下げられた方も多いと思いますが、私はこの条例改正を知ったとき、不安を抱きました。次のような法律の基本原則があるからです。

 (1)罪刑法定主義の原則 法律で定められた罪に該当しなければ罰せられない(2)不遡及(そきゅう)の原則 法改正によって、過去の行為に適用できない(3)一事不再理の原則 一度処罰した事項については、二重処罰できない

 不安が現実になりつつあります。11月8日、加害教諭の一人が休職処分による給与差し止めを不服として、審査請求を申し立てたのです。

 問題となったいじめ行為や、有給休暇の取得は、条例改正前に起きました。なので(2)の不遡及の原則が引っかかってきます。

 話がちょっと逸(そ)れますが、事後法で裁いた世界史上で最も有名な裁判は東京裁判でした。法律の原則から言えば、戦犯とされた人々は、全員無罪でなければなりません。

 話をいじめに戻すと、「重大な非違行為があり、起訴されるおそれがある」ことを理由とする休職も、先を考えれば微妙なところがあります。今回の休職処分が、民間でいう「懲戒休職」や「出勤停止」として懲戒処分に当たると解される可能性があるのです。

 何を意味するかというと、これから事実認定後に加害教諭に対し懲戒免職などの本処分をしようとしても、今回の休職が懲戒処分だと解釈され、(3)の一事不再理の原則が立ちはだかる可能性があるのです。そうなれば、懲戒免職にはできません。加害教諭は退職金をもらっての自主退職が可能となります。

 世の中の判断基準として、大きく分けて「法律」と「道徳」があります。

 「合法で道徳的」が理想の姿で、その真逆にあるのが「違法で不道徳」です。困るのは「合法だけど不道徳」「違法だが、道徳的」という状態です。

 今回の加害教諭の行為は「違法で不道徳」です。しかし、休職処分や給与差し止めという神戸市条例改正は、「道徳的だが、違法」と解される可能性があるのです。すなわち、加害教諭による給与差し止め審査請求が、「不道徳だが、合法」と判断されかねないということです。

 法律は人が作るものです。時代背景に合わせて変わっていきますが、常に後手後手とならざるを得ません。たとえ時代遅れや悪法であっても、法治国家では最強の判断基準です。こう考えると、法律を「いかに道徳に近づけるか」ということが、最重要だと言えます。

 誰からも非難されるような刑法犯に対しても、在職中なら有給休暇を与えなければならないのが法律です。法律自体が間違っていると言えるのではないでしょうか。「有給休暇は誰でも取得できる」という前提を疑い、特に大きな問題のある行為があった後は、有給休暇が取得できないよう法改正することが考えられます。少しは道徳に近づくのではないでしょうか。

 こんなケースも想定できます。社員による100万円の横領が発覚し、怒った事業所の責任者が「今日限りでクビだ!」と言ったとします。

 しかし労働法は、横領された100万円すら回収できていない事業所に対し、賃金約1カ月分の解雇予告手当を、この問題社員に支払うよう義務づけています。泥棒に追銭とは、まさにこのことです。とんでもない状態であり、法改正による適正化が必要です。

 権利の乱用は許されません。政府・国会には、許されない権利乱用の具体的な基準を検討いただきたいところです。

                   ◇

【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。

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