ボイコット日本に韓国の航空会社悲鳴 日本人客でカバーも… 「価格競争には限界」
日韓関係の悪化で、韓国から日本への旅行者が大幅に減少した。福岡空港に就航する韓国の航空各社は、運賃値下げで日本人需要を喚起するが、収益悪化に悲鳴を上げる。韓国・ソウルを訪れると、観光業者も日本ツアーの低迷で苦しんでいた。
「韓国人の乗客は最大8割減った。われわれは(日韓関係悪化の)被害者だ」
ソウルに本社を置く格安航空会社(LCC)、ジンエアーの徳山英広・福岡支店長は、ため息混じりに語った。同社は大韓航空系で、福岡など日本6空港との定期航路を持つ。その乗客が7月以降、激減した。
同月、日本政府がフッ化水素など半導体材料の対韓輸出管理を厳格化した。以降、韓国で日本製品の不買運動が起きた。
ソウルの男子高校生(17)は「不買運動は愛国心でやっている。自分も買わない。ただ、ユニクロなど安くなっている品物が買えないのは、正直しんどい」と語った。
日韓航空路線の利用者も急減した。韓国の仁川国際空港公社によると、今年10月、仁川空港から日本へ向かった乗客は約33万3千人で、前年同月に比べ約40%減少した。
LCCを中心に、韓国の航空各社は減便に踏み切った。福岡空港と韓国4空港を結ぶ1週間当たりの便数は、昨年冬ダイヤの計210便から、今年は133便(10月27日~11月26日)に減少した。
ジンエアーも大きな影響を受けた。
同社は平成26年12月、仁川-福岡線を開設した。乗客が多いドル箱路線であり、今年1~3月の需要期には、虎の子の大型機「ボーイング777」を投入した。
だが、ボイコットジャパンで、韓国人客が激減した。同社は日本人向けの販売を強化した。
仁川-福岡の比率は7月以前は韓国人75%、日本人25%程度だったが、9月以降は逆転した。日本人取り込みで、全体の搭乗率は8割台を維持しているが、環境は厳しい。
同じ考えの他社と、価格競争による日本人乗客の奪い合いが起きた。1席当たりの往復価格は1万1千円程度から、6千円台へと大きく下がった。ジンエアーの徳山氏は「現状では搭乗率が100%になっても、赤字になってしまう」と嘆いた。
同社の国際線の売上高に占める日韓路線の割合は、昨年1~9月の30%程度から、今年の同時期は半分以下に落ちた。
同社は採算度外視でも運航する。福岡空港の発着枠は一度手放すと、再び確保するのが難しいからだ。
福岡空港は国際航空運送協会(IATA)から混雑度が最も高い「レベル3」空港に指定された。IATAのガイドラインでは、航空会社が一定の期間中に計画便数の8割以上を運航できなければ、発着枠を失うと定める。再割当ての際も不利な扱いを受ける。
徳山氏は日韓路線の今後について「価格競争には限界がある。そんな中で韓国ではLCCがさらに増える。経営が厳しい会社は大変なことになる」と語った。
◇
韓国国内の観光業者も苦しい。
日本向けツアーに強みを持つ韓国のある旅行代理店担当者は「パッケージ旅行の販売実績は、昨年の7~10月に比べ、10分の1になった。おかげで私は定時で帰れる」と自嘲気味に語った。
原因として、韓国人の感情を挙げる。対日関係が悪化する中で、日本に行くことへの罪悪感や、周囲への気兼ねがあるという。以前は個人のSNSに、日本旅行の様子の写真があふれていたが、今は投稿を控える傾向も強いという。
この担当者に両国関係の悪化に関する意見を尋ねたが「政治的な話題に触れることは、損にしかならない」と言葉少なだった。
◇
日本旅行を控える韓国人と対照的に、日本人の韓国旅行は堅調だ。
韓国観光公社の金一中(キム・イルチュン)・日本チーム次長は「1~9月の日本からの旅行者は計250万人で、昨年同時期よりも1・3%増加した。詳しい分析はしていないが、若い世代が増えている傾向がありそうだ」と楽観論を述べた。
実際、ソウルの繁華街、明洞(ミョンドン)地区では、日本人向けに日本語で記した看板が並び、日本語や中国語の呼び込みの声が飛び交う。日本製品の不買はあっても、日本排除の雰囲気は感じられない。
10回以上、韓国を訪れているという東京都の大学院生、金本知哉さん(27)は「日本から来たといって、ひどい扱いを受けたり嫌な思いをしたことはない。むしろ逆だ。一方、テレビでは激しく日本を批判する韓国人を目にする。何度来ても、この二面性はよく分からない」と語った。(中村雅和)