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【かながわ美の手帖】茅ケ崎市美術館「江戸の遊び絵づくし」展

 ■想像力あふれる、江戸っ子の笑い

 美人画に役者絵に名所絵と、魅力あふれる浮世絵だが、「遊び絵」の面白さも忘れてはならない。茅ケ崎市美術館で開催中の「江戸の遊び絵づくし-みかけはこわいが遊びつくした楽しい浮世絵だ」展。これぞ庶民文化といえる遊び絵に絞っての展示だ。分類すると30種類にも及ぶが、そのほぼ全てを網羅。大人も子供も楽しめる展覧会となっている。

 ◆猫だらけ

 まずは〈寄せ絵〉。代表作の一つが歌川国芳の大判錦絵「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」。鎌倉の朝比奈切通しを一夜で切り開いたという伝説が残る剛力無双の武将、朝比奈三郎かと思われる。

 よく見ると目、鼻、耳、口、額…と顔全部、さらに右手も、裸の男を寄せ集めて形作っている。確かに「みかけは怖い」が「人が集まるのは人望があってこそ」と、同館学芸員の鈴木伸子は笑いつつ、感心しきり。

 〈当て字〉は人や動物などの絵を寄せ集めて文字を形作る。絵文字ともいう。猫好きの国芳が猫と魚に材をとった「猫の当字(あてじ)」シリーズの「ふぐ」は、10匹の猫と3尾のフグで「ふ・ぐ」。毒をもつフグと猫との距離感が愉快だ。

 〈奇躰画〉は複数人が頭部と体を共有して連環する。歌川貞景の「五子十童図」は5人分の頭で10人がつながっている。

 〈上下絵〉は、あべこべ絵ともいい、上下を逆にすると別人になる。国芳の「両面相 伊久 げどふ だるま とくさかり」は上が歌舞伎で助六のライバルの伊久、下は外道(悪者)。逆さにすると外道がだるま、伊久が木賊(とくさ)狩に早変わり。4人それぞれに詞書(ことばがき)も付いている。

 というように、いずれも奇抜な発想で、遊び心のある造形ばかりが並ぶ。国芳は壁にくぎで落書きしたような〈釘(くぎ)絵〉も描いた。「荷宝(にたから)蔵壁のむだ書(黄腰壁)」は天保の改革で役者絵の規制が緩んだ時期に出版。役者の似顔絵が「似たから」と、「荷宝」にかけ、猫も見えを切っているようだ。

 ◆なぞなぞや宴会芸

 〈判じ絵〉は「なぞなぞ絵」ともいう。読み解きクイズ。入館者の足が止まる。例えば、二代歌川国盛の「さかなのはんじもの 上」。岩が4つで答えは「イワシ」、頬に棒で「ホウボウ」、鎌とクモの巣で「カマス」、真ん中のない俵で「タラ」…。なるほど。

 あんどんなどの明かりによる〈影絵〉、自分の体と身近な道具を使い、物まねの手本とした〈身振絵〉も江戸時代に流行。歌川広重の「即興かげぼしづくし きりことふろう・つる」は、男が折りたたんだ扇子を左足の指で挟み、右足で立っている。この「つる」のアクロバット芸は「さぞや宴会でうけたのでは」と、鈴木の笑いと感心も止まらない。

 運気が高まる時期に入る人へのお祝いとしてつくられた〈有卦絵〉も数多く並ぶ。歌川芳藤の「有卦絵 ふ尽しの福助」は眉が筆、目がフグ、鼻が「ふ」の字、頭は風呂敷…と、福に通じる「ふ」づくし。着物のしわは「か・の・う・ふ・く・す・け」の文字になっている。江戸庶民の信仰と、あっけらかんとした笑い。

 「むしろ、当時の人たちのほうが想像力(創造力)が豊かだったかもしれない」という鈴木の考えに同感だ。=敬称略(山根聡)

                   ◇

 「江戸の遊び絵づくし-みかけはこわいが遊びつくした楽しい浮世絵だ」展は茅ケ崎市美術館(茅ケ崎市東海岸北1の4の45)で11月4日まで。午前10時から午後6時(入館は5時半まで)。月曜および10月15日休館(ただし、同14日と11月4日は開館)。一般700円ほか。問い合わせは同館(0467・88・1177)。

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 ◆遊び絵

 これまで主に浮世絵の「戯画」「おもちゃ絵」に分類されるもののうちから遊び心で造形(デザイン)性のある絵画を指す。ユーモアがあり「遊ぶ」「ゆとり」「束縛されない」「遊びの精神」「視覚の遊び」「決まりから外れる」「常識から外れる」「見立て」「パロディー」表現から生ずる。(同展図録所収の国際浮世絵学会常任理事・稲垣進一「江戸の遊び絵づくし」から引用)

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