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【雇用のプロ・安藤政明の一筆両断】「働き方改革の本丸」への対応

 「働き方改革」という言葉がすっかり定着した感があります。

 働き方改革関連法の内容は多岐にわたりますが、(1)年次有給休暇の年5日時季指定義務(2)時間外労働の上限規制(3)正規・非正規間格差是正-の3本柱です。それぞれ一言でまとめると、(1)休ませろ(2)働かせるな(3)格差を是正しろ-ということです。

 現実の勤務態度や労務遂行能力などは不問です。「休み方改革」「働かせない改革」などとした方が的を射ています。

 (1)は今年4月(3)は来年4月施行ですが、中小企業は(1)今年4月(2)来年4月(3)再来年4月と、少し遅れて適用されます。

 最後に施行される(3)正規・非正規格差是正は、政府が「非正規という言葉をなくす」とまで言い切った働き方改革の本丸ともいえるものです。マスコミなど一般では「同一労働同一賃金(均等待遇)」と呼ばれています。

 この呼び方が大きな誤解を招いています。経営者の方から、「同一労働にならんごと仕事が違えばいいっちゃろ?」とよく聞かれます。確かに、基本的に誤りとはいえません。しかし、それだけではないのです。同一労働同一賃金とは、正規・非正規の格差是正というくくりの中の一つで、別にもう一つ対応を要するものがあるのです。もう一つは、「同一でない労働・同一っぽい賃金」のようなもので、専門用語では「均衡待遇」といいます。均衡、すなわちバランスがとれた待遇というようなイメージです。

 例えば、皆勤手当を例に挙げます。皆勤手当は、一般に無遅刻無欠勤などの実績に対して支払うものです。仕事が同じでも異なっていても、関係ないはずだという考え方をします。この場合、「同一でない労働・同一賃金」ということです。

 また例えば、貢献に応じて貢献手当を支給しているとします。この場合、非正規などに対して、同額でなくても貢献に応じた額を支給するべきだという考え方をします。「同一でない労働・同一でない度合いに応じた賃金」とでも言えばいいでしょうか。

 経営者にこのような話をすると、笑顔で「またまた~、ウソでしょ?」と言われたりします。お気持ちが分かりすぎてつらいです。そもそも労働法は、契約自由という大原則を無視しすぎています。

 大騒ぎになることが予想される大問題なのですが、中小企業の多くは、漠然と「2年後の話し」と捉えているように感じられます。しかし、2年後では遅すぎます。なぜなら、既に平成25年から、無期契約と有期契約との格差是正を義務づける法律が存在するからです。既に裁判例が続出しています。

 さらにパートなどを含めて広く「非正規」に適用されることになるというのが、今回の法改正のイメージなのです。2年後どころか、直ちに対応すべき問題です。

 一部の事業所において、多くの手当が設定されていることがあります。危なすぎます。正社員だけにしか支払わない正当な理由が客観的に認められない限り、非正規にも支払わざるを得なくなりかねません。「正社員じゃないから」では通りません。一刻も早く、各手当の定義の再検討および統廃合などの対策が必要です。

 手当だけではありません。賞与や退職金です。こちらも既に均等待遇、均衡待遇の対象と考える裁判例も出てきているのです。

 総務省統計局の調査によると、最近の正規労働者数は3513万人、非正規労働者数は2124万人です。ざっくりですが、3対2です。

 非正規の平均的な労働時間数を半分、賞与なども半分と考えて試算してみます。正社員の賞与が40万円だったとすれば、今後は10万円ずつを減額し、3人分の30万円を原資として非正規2人に15万円ずつ支給するというようなイメージが考えられます。

 「正社員」という身分のメリットが薄まり、モチベーションが下がりそうです。ただ、どんなに貢献しても報われなかった非正規労働者が報われる点には賛同します。賛同できないのは、労働者の貢献度などを一切無視した格差是正のあり方という部分に対してです。

 手当、賞与、退職金。いずれも法律上は一円たりとも支給義務はありません。事業所が良かれと考えて支払う性質のものです。そして、この「良かれ」が足元をすくわれる原因になるといういつもの労働法のパターンが忍び寄ってきたというわけです。

 対策として、縮小・廃止などが考えられますが、それだけでは問題があります。正規・非正規の枠を越えて、勤務態度が誠実できちんと働く者を高く評価し、その評価が賞与などに反映する仕組みが必要だと考えます。そうしないと、正規・非正規を問わず単に担当している仕事内容と労働時間数くらいだけがすべての判断材料になってしまうからです。

 労働法が法律で強行的に保護する対象は、休む人、早く帰る人、そして権利を主張する人ということのようです。別にいいのですが、実際の労務遂行能力や勤務態度などが一切無視されている点は大問題です。事業所は、法律上の義務は順守しつつ、義務のない部分を工夫して普通に誠実に働く労働者が報われる仕組みが欲しいのです。そうしなければ、誠実な労働者が報われません。

 数年前の話ですが、アメリカの経営コンサルタント、ロッシェル・カップ氏は、日本人は勤勉でなく、モチベーションが低く、労働生産性も低いと指摘しました。そして、一言「会社に居座る日本人」と言い表しました。

 非常に悔しいですが、全くその通りです。労働法が、そのような労働者であっても解雇を認めず、居座っていても強烈に保護するからどうしようもありません。

 さらにこのような者に限って権利を主張します。事業所が「公平に」とか耳当たりの良いことを言って、結果的に問題社員の権利を増大させ、誠実社員の努力に報いてこなかったケースも目立ちます。大いに反省すべき点です。

 労働法は、働き方改革と称してさらに日本を陥れようとしています。国際比較において、日本の労働生産性の地位向上は、もはや夢物語となってしまった感があります。しかし、それで良いわけがありません。

 均等待遇、均衡待遇という時代に備えて、正規・非正規を問わずモチベーションが高く、事業所に貢献する労働者が報われる仕組みをつくることで、日本人の潜在能力を顕在化し、ひいては労働生産性の向上に寄与してほしいと切に願うのです。

                   ◇

【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。

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