PR

地方 地方

【いまエネルギー環境を問う 竹内純子の一筆両断】世論調査「感想」で政策左右される危険

 新聞やテレビでしばしば見かける「世論調査」。政権や各政党、政策への賛否、企業活動に対する国民や消費者の意見・判断を把握することが目的です。世論調査の結果は確かに「国民の声」であり尊重されるべきものですが、ではその結果によってすべての政策が決定されてよいのでしょうか。

 さすがにそれは違うと皆さんもお思いになるでしょう。なぜかといえば、正確な情報や知識の下に、自分の利害だけでなく社会全体の利益を考えて冷静に判断することは非常に難しく、誰もがそれをできるわけではないと考えられるからです。私たちは日々、自分の生活に忙しいのですから、突然難しい判断を迫られても困りますよね。年金制度や安全保障、そしてエネルギー・環境政策のように複雑に問題が絡(から)み合い、現世代だけでなく将来世代にわたって影響を与えるテーマにおいてはなおさらです。国民の意見を尊重すべきであることは言うまでもありませんが、だからといってすべての判断を委ねてしまうのはあまりに乱暴であり、地域住民や国の代表を選挙で選んでいることの意味もなくなってしまいます。

 先日、ホルムズ海峡への自衛隊派遣の是非について問う世論調査の結果が報じられていました。ある新聞では、見出しで「ホルムズ海峡派遣『反対』57%」とし、記事には日本政府が自衛隊を「派遣すべきではない」が57・1%、逆に「派遣すべきだ」は28・2%に留まったという数字だけが書かれていました。もちろん、自衛隊を海外に派遣するか否かは非常に慎重な判断を要する問題で、私自身も簡単に賛成か反対かという判断を口にはできません。派遣すること、しないことのメリットとデメリットをちゃんと認識したうえでなければ、「判断」ではなく、ただの「感想」しか言えないと思うからです。そもそもなぜ、ホルムズ海峡への自衛隊派遣が議論になっているのでしょう。

 この記事では「トランプ米政権の協力要請を巡り」とだけ書かれていました。「米国に協力を頼まれたからと言って自衛隊を派遣しますか?」と聞かれれば、多くの方がそうすべきではないと感じられることでしょう。しかし、背景にはこのホルムズ海峡というエリアの安全保障がわが国のエネルギー安全保障にとって非常に重要な意味を持つという事実があります。

 日本のエネルギー自給率は9・6%(2017年)、エネルギーの90%以上を輸入に頼っています。しかもその輸入先(2018年)を見れば、原油は87・4%が中東諸国から、85・7%はホルムズ海峡を通らねばならない国です。天然ガスは21・7%が中東諸国から、18%がホルムズ海峡を通らねばならない国からの輸入です。ホルムズ海峡で何かあれば、わが国のエネルギー供給は大きく影響を受けざるを得ません。今年6月に実際に起きたように、わが国にエネルギー資源を運ぶタンカーが攻撃を受ける可能性もあるので、誰かが護衛する必要があるわけです。これまで中東地域に多くの軍事力を割いてきた米国が「自国の船は自国で護衛すべきだ」という方針を明らかにしてきたことで、わが国の判断が問われているのです。

 米国はなぜ方針を転換したのでしょうか。大きな理由として、豊富なエネルギー資源を国内に有しているということが挙げられます。米国は豊富な石炭資源に加え、掘削技術の進歩もあって石油や天然ガスも大量に産出するようになりました。100基近い原子力発電所が稼働し、太陽光や風力発電に適した広大な土地も持つ米国は、中東地域が不安定になっても直ちに自国のエネルギー供給が脅かされるという状況にはなりづらいのです。以前は米国も中東の石油資源に依存していましたが、今は自分たちを「地上で最もエネルギー資源に恵まれた土地」と呼ぶほどになっています。中東地域の安定の恩恵に浴する立場の国が、より負担をすべきだというのがトランプ政権の主張です。

 この記事では、どのような質問をしてこういう回答結果になったのか明らかではありませんが、こうした背景も伝えたうえで問わなければ調査の意味はないでしょう。単純な世論調査ではなく、討論や質疑応答を通じて参加者の意見がどう変化したかを調べる「討論型世論調査」という手法もあります。わが国でも福島原子力事故後に、2030年のエネルギー・ミックスにおける原子力依存度がこの手法を活用して議論されました。もちろんこの手法にも欠点がない訳ではなく、進行役の手腕・手法や、会場に声高な主張をする参加者がいると結果が左右されてしまうという懸念もあります。世論調査は国民の意見や判断を把握する上で重要な手がかりではありますが、その結果に国民が影響されてしまうという問題点も指摘されています。どんな問いかけをするにせよ、十分かつ公平な情報を提供したうえで調査してほしいと思いますし、私たちもメリットとデメリットをよく比較考量して判断したいですね。

                   ◇

【プロフィル】竹内 純子

 たけうち・すみこ 昭和46年、東京都出身。慶応大卒業後、東京電力を経て平成24年からNPO法人「国際環境経済研究所」理事。筑波大客員教授。著書に「誤解だらけの電力問題」(ウェッジ)や「原発は“安全”か-たった一人の福島事故調査報告書」(小学館)など。「正論」執筆メンバー。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ブランドコンテンツ