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【共生の覚悟はあるか】「トラブルになりかねない」感染症の拡大も懸念

外国人患者への伝え方を医療関係者が学んだセミナー
外国人患者への伝え方を医療関係者が学んだセミナー

 ■通訳養成、会話力向上へ経済界や学会動く

 スーパーやコンビニエンスストア、工場で多くの外国人が働く。人手不足・日本の産業は、彼ら彼女らなしには成り立たない。

 日本で働き、長く暮らすのであれば、国籍に関係なく、「かかりつけ医」が欠かせない。が、病院や診療所の多くは、受け入れ態勢の整備が追いつかず、負担やリスク増加に苦悩する。

 福岡市中央区の秋本病院(50床)には、毎月4~5人の外国人が診療に訪れる。国籍は中国や韓国、ネパールやタイなど幅広い。勤務中のけがや、慣れない環境で精神疾患になった人もいた。

 秋本亮一院長(66)は「英語や、携帯通訳機のポケトークでなんとかコミュニケーションを取っているが、対応は時間がかかる。応急処置で良いのか、十分な治療が必要か、患者が求める医療がつかめないことも多い」と話した。

 常勤医は5人。救急処置が可能な「救急告示病院」として24時間、急患を受け入れる。医師や看護師に余裕はない。

 今春、旅行中に貧血を起こした40代フィリピン人女性が来院した。英語が話せる同行者を通じ、輸血を求められた。

 どれだけ検査をしても、輸血はごくまれに、じんましんや発熱などの副作用を伴う。重度の呼吸困難や感染症の可能性も、ゼロではない。

 女性には事前に説明し、承諾書にサインをもらった。だが、本人がどれだけ理解しているか、おぼつかなかった。

 「医療現場では正確に話が伝わらないと、トラブルにつながりかねない。日ごろの診療で精いっぱいで、外国人は正直、ウエルカムではない。政府は外国人受け入れに旗を振るのはいいが、現実をみてほしい」

 秋本氏は表情を曇らせた。

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 人口減少や人手不足で、病院の経営は深刻さを増す。

 厚生労働省によると、今年5月末時点の病院施設数は8324カ所となり、過去10年間で426カ所減少した。多くが医療法人や個人が経営する小規模病院だった。

 全国約2500の病院が加盟する一般社団法人「日本病院会」などの調査によると、平成29年度に46・1%の病院が赤字だった。

 帝国データバンクによれば、30年の医療機関の倒産は40件で、22年以来の高い水準だった。負債総額は140億3千万円に上った。

 悲鳴を上げる医療機関にとって、外国人患者の対応は、必要であっても難しい。

 こうした課題を少しでも解決しようと、九州経済連合会は2月、「九州国際医療機構」を設立した。

 外国人患者の受け入れ態勢の強化を目指し、医療従事者の研修や、通訳業務のサポートをする。

 九経連はこれまで、アジアから日本への医療渡航を推進してきた。いわゆる「医療ツーリズム」だ。外国人患者の受け入れが、地域の医療機関にとって収入増につながると期待した。

 しかし、外国人医療をめぐり、さまざまな問題が顕在化した。

 総合メディカルの社員で、九経連出向中に同機構設立に携わった高野奈津子氏(45)は「受け入れへの考え方は、病院で温度差が大きい。課題解決と医療を通じた経済活性化の両面で、よい良い方策を探りたい」と組織の目的を語った。現在、九州内の病院など29団体が参加する。

 業界も動く。

 医師らでつくる国際臨床医学会は、語学力と医療の知識を持つ「医療通訳士」の制度づくりを進める。

 医療現場での誤訳は、治療内容に影響し、事が起きれば訴訟に発展する恐れもある。通訳の質の向上は大きな課題といえる。

 現在は、民間企業や任意団体などが通訳者を提供しているが、統一の基準はない。

 同学会理事で、九州大学病院国際医療部の清水周次教授(63)は「医療現場では、英語が得意なだけでは通用しない。医療の知識や経験も求められる。東京五輪や技能実習生の受け入れで、外国人は急増する。対策を急がないといけない」と語った。

 患者に接する病院職員も、会話力の向上に力を入れている。

 九州国際医療機構と順天堂大は5月、福岡市内で「やさしい日本語」と題したセミナーを開いた。医師や看護師ら25人が、医療現場で使う日本語を、外国人に分かりやすく伝える手法を学んだ。

 参加者からは、外国人患者の不安を取り除こうと、懸命に学ぶ姿が伺えた。こうした現場の努力が、外国人対応を支える。

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 人手や費用面の対策だけでなく、医師が警鐘を鳴らすのが感染症対策だ。ある医師は「対策を怠れば、問題の菌やウイルスを積極的に輸入してしまう」と語った。

 福岡大学病院(福岡市)で平成20年、ほとんどの薬がきかない多剤耐性菌の院内感染が発生した。

 自然界に広く存在する細菌「アシネトバクター」だった。韓国に渡航し、重症の肺障害で治療を受けた日本人患者が、福大に搬送されてきた。この患者から感染が広がった。

 感染力の強さに加え、当時国内でこの菌に対する認識が薄かった。感染者は26人に上り、4人が死亡した。2人の死因は感染とは無関係だったが、2人は因果関係が不明なままだった。

 病院経営にも打撃だった。清掃や消毒、施設の改修など、対策費は1千万円に達した。一部の病棟で患者の受け入れを中断し、減収となった。

 対策の陣頭指揮を執った感染制御部の高田徹部長(56)は「国内で前例がなく、すぐに問題視できなかった。海外の病院で手術などを受けた患者は、多剤耐性菌のリスクがある。高度医療に関わる病院ほど、自衛をすべきだ」と語った。

 福大病院はこの教訓を、院内感染の防止に生かす。地域の他の病院や、全国の私立大学の付属病院との間で、病原体や対策について速やかな情報交換をしている。

 また、2003(平成15)年には、コロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的蔓延(まんえん)があった。

 SARS蔓延は香港のホテルが起点だった。中国・広東省で治療に当たっていた1人の医師がこのホテルに滞在し、同じ時期に宿泊していた人を通じてベトナム、香港、シンガポール、カナダ・トロントなど世界中に広がった。この流行で、774人の死亡例が報告された。

 外国人だから病原体を持っているわけではなく、偏見に基づいた差別は許されない。

 ただ、国籍や民族に関わらず、人の移動が盛んになれば病原体も移動する。

 人命を預かる病院で、問題が起こってからでは遅い。外国人患者の受け入れを増やすのであれば、さまざまな備えが欠かせない。 

(九州総局 高瀬真由子)

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