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「いまエネルギー・環境を問う 竹内純子の一筆両断」エネルギー・環境相会合でみせた「日本の奇跡」

 今年わが国はG20の議長国を務め、多くの会議がこの日本で開催されました。6月中旬には長野県軽井沢町において、「持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」が行われました。略して「エネルギー・環境大臣会合」と呼ばれていましたが、正式名称を見ると世界の持続可能な発展について話し合う、大事な会議であることが伝わってきますね。

 ただ、このエネルギー転換と環境に関する会合は、2年前に米国のトランプ大統領が参加するようになってから、全体の取りまとめがとても難しくなっています。トランプ大統領は気候変動問題に懐疑的であり、オバマ政権時代に米国が掲げた目標は、中国など他の国と比べて達成に向けた負担が大きく不公平であると主張し、パリ協定の離脱を宣言したためです。この2年ほどは、共同声明が出せず議長の声明にとどめたり、米国とそれ以外を書き分けるなど、G20としてのまとまった意志を示せませんでした。今回も統一的な成果文書を示すことは正直難しいのではないかと、ささやかれていたのです。ところが一発大逆転。すべての参加国をまとめる形で成果文書が採択されました。参加者から「ミラクルだ」との声も聞かれたこの成果が、なぜ出せたのかを私なりに考えてみたいと思います。

 最大の理由は、イノベーションの重要性を前面に出したことでしょう。これまでこのコラムでも書いた通り、経済発展を果たしながら大幅なCO2削減を進めるには、イノベーションが必須です。世界各国が国連に提出した、低炭素社会への転換に向けた長期戦略においても、イノベーションが必須であることは明確に述べられています。先日政府が閣議決定をした日本の長期戦略もイノベーションの重要性に触れ、かつ、他の国よりも踏み込んでそれぞれの技術のコスト目標も掲げました。

 とはいえ、イノベーションは待っていても向こうからやってくるわけではありません。今回のG20で日本は、「Research and Development 20 for clean energy technologies (RD20)」という国際会議を設立することを提案して、各国の賛同を得ました。これは、G20各国の主要な研究開発機関の国際連携を促進することを目的として設置されるものです。それぞれの研究開発機関ができることには限りがあっても、それが連携すれば大きな成果が手に入るかもしれません。研究開発は競争力の源泉でもあり、連携を口にするのは容易ですが実体を伴うのはハードルが高いのです。そのなかで、具体的な会議体の設置を提案し、それが承認された意義は大きかったといえるでしょう。日本政府は2014年から「Innovation for cool earth forum(ICEF)」という国際会議を毎年ホストし、気候変動対策に寄与するイノベーションに関わる研究者たちの連携をサポートしてきました。このRD20によって、これまで個人の研究者同士の連携にとどまっていたものが、さらに発展して研究機関同士の連携に拡大すると期待されています。RD20に加えて、「軽井沢イノベーションアクションプラン」を策定して、各国がすべき行動についても取りまとめました。

 もちろん成功要因は、イノベーションを前面に出したことだけではないでしょう。環境問題という国際的な課題に対して、統一的な成果文書を出すことを前提に、粘り強く交渉した関係者の努力や、各国から集まった参加者に対して示されたわが国のホスピタリティも評価されたのだと思います。面白いもので、2015年に開催された国連の会議でパリ協定の採択に成功した背景には、会議場内にパン焼き窯まで持ち込んで参加者の食事に配慮を示したフランス政府のホスピタリティも大きく影響したのではないか、と会議参加者の間で話題になったことがありました。ちなみに、地球温暖化に関する京都議定書や生物多様性保護に関する愛知議定書など、とりまとめが難しいといわれた環境関係の枠組みを、日本はこれまでまとめてきました。多様な意見をバランス良く聞いて、相手の立場を尊重しながらまとめてきたこうした外交実績を「日本の奇跡」と呼んでくれる人もいるのです。

 さて、成果文書は出ました。これからが実行の段階です。RD20など新しい取り組みが「仏作って魂入れず」にならないよう、提案した日本がリーダーシップを発揮せねばなりません。会議は終わりましたが、これからが議長国としての本気の見せ所なのかもしれません。

                   ◇

【プロフィル】竹内純子

 (たけうち・すみこ) 昭和46年、東京都出身。慶応大卒業後、東京電力を経て平成24年からNPO法人「国際環境経済研究所」理事。筑波大客員教授。著書に「誤解だらけの電力問題」(ウェッジ)や「原発は“安全”か-たった一人の福島事故調査報告書」(小学館)など。「正論」執筆メンバー。

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