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【士魂を育む 今村裕の一筆両断】「ふりがな・素読」のすすめ

 平成から令和への御代替わりから1カ月以上が経過し、日本各地から梅雨入りのニュースが入ってきました。4月に小学校に入った新1年生も学校生活に慣れ、学校によって運動会を終えたところもあることでしょう。

 1年生がおられるご家庭ならば、改めて、教科書を開いていただけないでしょうか。特に「こくご」の教科書を見てください。

 第一印象はいかがですか。きれいだなあ。絵や写真がいっぱいだなあ。昔の教科書とはずいぶん変わっているなあ…。いろいろ感想があることでしょう。文字の少なさに、驚かれた人も多いのではないでしょうか。

 今、小学校1年生で学ぶ漢字の数は、たった80字です。漢数字の「一」「十」「百」「千」や「上」「下」なども含んで、この数です。その後、2年生で160字、3年200字、4年202字、5年193字、6年191字と学びます。小学6年間で計1026字です。これは「学年別漢字配当表」に載っています。

 例えば「令」は4年で、「和」は3年で学びます。「平成」の「平」は3年、「成」は4年で学ぶことになっています。文部科学省は弾力的な取り扱いは可能としていますが、私は小学生が学ぶ漢字の数が、少なすぎると考えます。

 「国語科」以外の教科書も見てください。1年生の「さんすう」は一部の例外を除いて、原則すべてひらがなとなっています。これは、新しい漢字は「国語科」で学ぶという建前があり、国語以外の教科書は、前の学年までに学んだ漢字しか使用できないのです。

 こうした教科書になったのには、背景があります。ある時期から、日本の国語教育は「話す、聞く」ことを大きな柱に設定しました。コミュニケーション重視の時代において、必要とされる能力だというのが理由です。

 最新の学習指導要領でもそれは変わっていません。重要度は「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の順番であり、それぞれ学年ごとの系統立った目標が設定されています。

 しかし、今のような低いレベルの国語の教科書で良いはずがありません。

 教育は国の土台です。その教育の根幹は、母国語のちからであろうと考えます。国語(母国語)での思考力こそ、国力の基礎の基礎でしょう。日本は「漢字仮名交じり文」という、語学上の大発明により、独自の文化を育み、発展してきました。国語を学ぶもう一つの重要な点は、「精神の涵養(かんよう)」に深く関わっているということです。

 しかし、現状の教育は「読み書き」を軽視しています。読む力が育たなければ、「語彙(ごい)力」も育たないのです。

 「文化的素養」「精神涵養」という視点で、現在の小学校で学んでいる子供たちはどうでしょうか。江戸時代の寺子屋で学んだ庶民の子供に、遠く及ばないと感じます。

 語彙力の不足は、大きな問題です。日本の小学生は割と本を読みますが、中学以降になると、途端に読まなくなります。大人の本、少し難しい本を読むのに必要な国語力が、身についていないからです。

 その結果でしょう。月に1冊も本を読まない大学生の割合が、半数を超えたという調査もあります。若者が多用する感嘆詞は、「やばい」「超」ばかりです。自分の気持ちを言語化する語彙力が、不足しているといえます。

 情報があふれる時代だからこそ、文脈を正しく読み解かなければいけません。それには語彙力や、文脈からの想像力も必要です。

 幼い頃からそうした力を刺激し、精神の涵養につながる日本語の文章を、たくさん読ませる必要があるのです。

 「読書百遍(ひゃっぺん)、意自(おの)ずから通ず」という言葉があります。昔の日本人の教育には、年齢的に少々難しいと思われる文章でも、声に出して読む「素読(そどく)」がありました。もちろん難しい漢字には、「ふりがな」を振っておきます。漢字は基本的には象形表意文字です。書けなくても、その文字を「絵のように見ながら読む」ことはできます。

 最初は書けなくても良いのです。読むことで語彙力が高まります。「素読」という方法で、日本語のリズム感覚と、語彙力を身につけることができるのです。これが教育の根幹を、大きく育てることになるでしょう。

 学年別漢字配当などという、子供の成長に枠をはめるような不要な配慮はなくし、意味のある文章を、どしどし読ませるという国語教育を期待します。

 (参考文献、『齋藤隆のこくご教科書小学1年生』致知出版社、安達忠夫『素読のすすめ』ちくま学芸文庫)

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【プロフィル】今村裕

 いまむら・ゆたか 昭和31年、福岡市生まれ。福岡県立城南高校、福岡大学卒。兵庫教育大学大学院修士課程を修了。福岡大学大学院博士後期課程。公立小学校教諭、福岡市教育センター、同市子ども総合相談センター、広島国際大学大学院心理科学研究科などを経て、現在は大分大学大学院教育学研究科(教職大学院)教授。臨床心理士、公認心理師。

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