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川崎簡宿火災4年 地区再編策、滞在者置き去り

 新しいマンションが次々と建てられる川崎市川崎区日進町の一角に、駐車場として区画され、ぽっかりと抜け落ちている空間がある。4年前まで「吉田屋」と「よしの」の2軒の簡易宿泊所が並んでいた場所だ。死者11人を出した川崎・日進町簡宿火災から4年を迎えた17日を前に、現場周辺を歩いた。

 焼失した2軒があった場所は川崎署や公園、学校などがある閑静な住宅街。地元でいまもなお「ドヤ街」と呼ばれる一帯とは線路によって寸断され、周辺には2軒だけが独立して立っていた。現在周辺は開発が進み、かつてそこに簡宿が存在した痕跡は見えない。道行く人は跡地前を足早に通り過ぎ、凄惨(せいさん)な火災や死者に思いをはせる人は見当たらないように感じられる。

 ◆福祉の受け皿

 火災当時、日進町の簡宿では「吹き抜け3階構造」と呼ばれる違法建築が横行していた。2階建てとして市に届けておきながら、2階上部に部屋を新設し、3階とすることで客室を増やす改築だ。この構造が火の回りを早め、多くの死者を出したと指摘され、火災後は日進町全域で違法建築が厳しく取り締まられた。

 行政も火災を境に、生活保護を受給して長期滞在する簡宿利用者に対し、自立支援と称して域外でのアパート生活を推進。並行して「ドヤ街」というマイナスイメージを払拭し、外国人観光客や女性客も気軽に泊まれる街とするべく、地区再編に乗り出している。

 簡宿街は、かつて工場や港湾関係など市の産業を支えた労働者が多く住み着いた場所だ。だが、近年は生活保護受給者や単身高齢者の生活の場となっており、福祉の受け皿として機能している側面もある。

 管理人の女性の一人は「仕事といえば(滞在者の)食事の世話や、ちらかした便の片付けなど、まるで介護職」と嘆き、「市は元気で働ける人から引き抜いていく。簡宿街を一掃したいのだとしても、ここ(簡宿街)から抜け出られない高齢者たちはどこへ行けばいいのか」と憤った。

 ◆方針に疑問

 民業圧迫を指摘する声もある。利用者を“間引き”される形となった簡宿は、多くが経営難に陥った。経営者の高齢化なども相まって、廃業を選ばざるを得ないケースも少なくない。

 関係者から聞こえてくるのは、市に対する恨み節だ。経営者の一人は「市のやり方は民業圧迫そのもので、納得がいかない。ただ、これも時代の流れなんだと諦めている」と話し、複雑な表情を浮かべた。

 新装開業した簡宿「門宿」が目を引く。「日進町の玄関口にある『門宿』が簡宿街の新しい姿をアピールする」という市側の意向もくみ取った外装だ。経営者の斉藤倫子さん(51)は「滞在者を追い出さないことを最重視して改装に踏み切った」と話した。

 ◆進むリノベ

 市は、外国人や女性客が利用できるよう改装する簡宿に対し、補助金を拠出。そうした流れのなか、平成30年1月に「日進月歩」、31年3月に「門宿」、同年4月には3軒目となる「サンフラワー」が開業した。

 市の担当者は「改装を考えているという声をほかにも聞いており、今後も日進町のリノベーション(改修)は進んでいくだろう」と話している。

 日進町内で2軒の簡宿を経営する60代の女性は「改装を前向きに考えており、市に相談している」と明かした。ただ、地区で廃業が進み、あふれた長期滞在者が集中することで経営が維持されるという皮肉な現実もあるようだ。

 この女性は改装に踏み切れない事情の一つに、現在、居室が満室になっていることを挙げた。「宿泊客を追い出したくない。室料も取れているうちは変える必要もないのでは」との葛藤を抱いているという。

 日進町の簡宿街を歩いて頭に浮かぶのは、市が描くような業態転換がこの先も進んだとき、残される高齢者や簡宿関係者はどうなるのかという疑問だ。「ドヤ街」という“臭い物”には刷新という“蓋”をし、要介護の滞在者などの行く先には目が向けられぬまま、行政の地区再編という方針だけが一人歩きしないよう注意する必要があると感じた。(外崎晃彦)

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【用語解説】簡易宿泊所

 旅館業法で定められた4種の旅館業のうちの一つ。同法では「宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの」と定義している。多くの日雇い労働者が寝泊まりする簡易宿泊所が立ち並ぶ簡宿街は「ドヤ街」と呼ばれたが、最近は生活保護受給者や単身高齢者の利用が目立つ。

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