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九州企業、タイへ 米中摩擦で生産移管へ関心 130年を超えて続く友好関係

多くの屋台が並ぶバンコクの路上。この国で7万人の日本人が暮らす
多くの屋台が並ぶバンコクの路上。この国で7万人の日本人が暮らす

 「付き合いのある企業から『中国から米国への輸出ができなくなり、タイの生産量を増やすことを考えている』と聞く。日系企業にとって、タイなど東南アジアの重要度は増そうとしている」

 安川電機タイ現地法人の山田正剛社長(49)は、米中貿易摩擦の影響をこう指摘した。

 産業用ロボット大手の同社は1990年代後半、タイに進出した。主な顧客は日系の自動車メーカーと、その下請け企業だった。

 タイ政府は自動車産業の振興にあたり、国外のメーカーを多く受け入れた。特に日本メーカーが、大きな役割を果たしてきた。

 タイランド湾に面した国際貿易港のレムチャバン港周辺に、日系の自動車産業が集積した。安川電機の顧客の中心は、こうした自動車関係の企業だった。

 だが、ここ5年ほどの間に、タイ企業との取引が増加した。今では顧客の2割に達する。

 90年代後半のアジア通貨危機、リーマン・ショック(2008年)、大洪水(11年)にも負けず、タイは経済成長を続けた。国民所得も増えた。

 半面、賃金が上昇し、人手不足が深刻化することで、タイの製造業は世界市場で苦戦するようになる。タイ政府は今、こうした「中所得国の罠(わな)」からの回避を目指す。

 2015年、海外投資を呼び込み、産業の高度化を目指す経済政策「タイランド4・0」を提示した。次世代自動車やロボット、バイオなどの対象産業に、税の優遇措置を設けた。加えて生産拠点の省力化に本腰を入れ始めた。

 こうした政策が、安川電機には追い風となる。同社のタイでの2018年売上高は、15年の1・5倍に増えた。山田氏は「自動化や高度化の波が、自動車以外の産業にも広がっている」と語った。

 さらに、米中貿易摩擦という大風が吹き始めた。

 追い風か逆風か-。タイに進出した日本企業は、行方を注視する。

 盤谷(バンコク)日本人商工会議所が昨年11月~12月に実施した会員企業への調査では、米中貿易摩擦が「好影響」とする回答は13%、「悪影響」は32%だった。「影響がない」「分からない」が合わせて54%だった。具体的には、「輸出数量の減少」(36%)など、悪影響を懸念する項目が上位を占めた。一方で、「中国からタイへ生産移転をした(検討している)」も5%あった。

 同会議所の堤陽一事務局長(39)は「中国からタイに工場を移すまでの動きは出ていないが、タイにおける生産割合を増やそうとしている企業はあるようだ」と語った。

 米中両政府は28日、北京で貿易摩擦解消を目指す閣僚級協議を再開。来月3日には米ワシントンでも開く予定だが、協議の行方は予断を許さない。

 ■技術への期待

 国際社会に波風が立つ中でも、日本とタイの友好は続く。両国の修好関係は130年を超える。

 経済を管轄するソムキット副首相は、タイ市場の魅力や優遇政策をPRするため、日本を度々訪れる。日本企業の「一本釣り」に取り組んでいる。

 ジェトロ(日本貿易振興機構)バンコク事務所海外投資アドバイザーの田口裕介氏(37)は「タイは今、景気も良い。産業高度化へジャンプする絶好のチャンスで、国を挙げ、投資呼び込みに力を入れている」と語った。

 ソムキット氏は昨年2月、福岡市も訪れた。小川洋福岡県知事と会談し、福岡のベンチャー企業経営者らと意見交換した。

 スカイディスク(福岡市)の海外戦略室長、末永善彦氏(46)も、その場にいた。同社は2013年創業で、あらゆるものをネットにつなぐ「IoT」や人工知能(AI)の技術を持つ。

 末永氏は「(副首相は)生産現場での効率化や高付加価値化を進め、タイの産業を底上げしたいと言っていた。技術を持つ日本企業への高い期待を感じた」と語った。

 同社は今、タイ進出を目指し、現地法人設立の準備を進める。

 タイ政府は昨年10月、日本で2カ所目となる総領事館を、福岡市に開設した。九州企業との交流強化が期待される。

 タイでは、駐在員やその家族ら約7万人の日本人が暮らす。駐在員は30代、40代の中堅社員が多い。日本とタイの交流を、駐在員の奮闘が支えている。

 現地関係者によると、タイ人は陽気で、問題が起こっても、あまり心配しない。「マイペンライ(問題ないよ)気質」は、駐在員にとって住みやすさにつながる。半面、ビジネス上は苦労もあるという。収入増へ、数年ごとに転職する労働者も多い。

 現地では人材の確保と定着を目指し、「タイ人とうまくやっていくには」といったセミナーも、頻繁に開かれている。

 企業は成長の可能性をつかもうと海外に出る。一方、進出によって、当該国や世界情勢の変化という経営リスクを抱えることになる。メリット・デメリットをにらみつつ、日本企業は挑戦する。

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 この連載は高瀬真由子が担当しました。

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