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【ぐんまアート散歩】群馬県内で美術との出合い楽しむ

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 私が前橋で高校生活を送っていた頃、市には美術館がなかった。20年近く前のことだ。幼少期、父の仕事の関係で館林市、長野原町と県内を転々としたが、いずれの土地でも美術の体験をしたという記憶はほとんどない。唯一あるのは、小学校低学年の2年間、館林で美術家の下川勝先生の絵画教室に通っていたことくらいだが、先生が現代美術の作家として活動されていることを知ったのはつい最近のことだ。

 だが、それから十数年がたってみるとどうだろう? 前橋市にはアーツ前橋が平成25年に開館し、昨秋で5周年を迎えた。この間、展覧会、作品収集、教育普及といった従来の美術館の活動を拡張するようにして、市街地でのアートプロジェクトを積極的に展開し評価されている。館林には、近代美術館(高崎市)に続く2館目の県立美術館として館林美術館が13年に開館し、長野原町ともほど近い中之条町では、19年から温泉街や木造校舎などを会場に「中之条ビエンナーレ」が隔年で開催中だ(今年は開催年である)。

 実業家、原邦造の私邸を活用し、ユニークな空間で現代アートを鑑賞できる原美術館(東京都品川区)が来年末に閉館するというニュースが昨年美術ファンを悲しませたが、渋川市にある別館「ハラ ミュージアム アーク」を「原美術館ARC」と改称し、活動を続けていくという。私が幼い頃と比べると、県内で美術に触れる機会は随分と増えている。

 現在私が勤める太田市美術館・図書館も、中心市街地のにぎわいの創出という使命から、「まちに創造性をもたらす、知と感性のプラットフォーム」を基本理念に29年春、太田駅前にオープンした複合施設だ。この土地にどのような文化的営みがあったのか、美術館や文学館のなかった太田ではそれがつまびらかではない。しかし、たとえ知られていなくても、どこであれ、人が生きている土地に文化がないということはない。

 昨年、当館の展覧会に参加していただいた詩人、管啓次郎さんと画家、佐々木愛さんとの「Walking」というプロジェクトがある。「今日はあなたも一緒に歩きましょう」。そう言って、管さんと佐々木さんは太田の市街地から金山の山頂までを歩き、管さんは詩を書き、その詩を読んだ佐々木さんは絵を描いた。今回掲載した美しい絵はそのときの作品だ。「歩くこと」による新しい出合いと発見を楽しむ2人の営みは、私たちの身の回りに日常的に存在している世界の広さと深さを知らせてくれる。

 本連載では、私が県内のそこここを巡るなかで出合った作品やアーティストを紹介したい。(太田市美術館・図書館学芸員 小金沢智)

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【プロフィル】小金沢智

 こがねざわ・さとし 昭和57年、前橋市生まれ。平成20年、明治学院大学大学院文学研究科芸術学専攻博士前期課程修了。専門は日本近現代美術史。世田谷美術館(東京都)を経て、27年10月から太田市美術館・図書館開館準備に携わり、29年1月のプレオープンから同館学芸員。開館記念展をはじめ、主に展覧会の企画を担当。

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