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日立製作所笠戸事業所の大谷時博氏に黄綬褒章 熟練工の技、機械で

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 新幹線をはじめ、高速鉄道車両の生産現場で、車両先頭部分を作る熟練技の機械化を進めた人物が、山口県にいる。日立製作所笠戸事業所(山口県下松市)の上級監督者、大谷時博氏(56)=同県光市=だ。経験と勘による職人の神業を、機械で再現させる。その技術もまた、神業と呼べる。大谷氏は今秋、黄綬褒章を受章した。(大森貴弘)

 「私は決して器用ではない。だからこそ、妥協せず、良い方法を模索し続けた。そんなこだわりの強さは、誰にも負けないと思っている」

 高速鉄道車両の先頭部分を、「削り出し」と呼ばれる技術で、機械化する方法を確立した。

 新幹線の先頭は、独特の形をしている。東海道新幹線を走る700系の場合、先頭は「カモノハシ」のくちばしを思わせる形になっている。この形に、空気抵抗や騒音を小さくする工夫が詰まっている。

 それだけに、微細な加工が要求される。従来、熟練の職人がハンマーでアルミの板を1枚ずつ打ち、加工していた。「たたき出し」と呼ばれる。

 職人の技能に頼るだけに、安定した生産は難しい。平成17年ごろ、機械でアルミの板を削る方法の導入が検討され、現場を一手に任された。

 「あの手作業の繊細さを再現できるだろうか」。任された本人が、機械化に半信半疑だった。

 それでも「誰がやっても同じ精度にならないと、職人が高齢化する中で危機的な状況になる」と挑戦を決めた。

 厚さ10~20センチのアルミ板を、薄い部分では約2ミリにまで削る。どんな刃を、どんな角度で当てるか。刃物の固さを変え、何十回と試した。

 削る際、アルミ板をどう固定するかも難問だった。がっちり固定すれば素材が傷む。弱ければ、機械の振動で正確な作業ができない。

 試行錯誤は1年以上続いた。企業秘密で明かせないが、最適な削り出しの方法を見つけていった。

 機械化によって、1カ月1枚だった製造枚数は、最大で1日2~3枚に増えた。

 ■「正射必中」

 小学生のころ、父に手を引かれ、日立製作所の鉄道車両製造工場を訪れた。

 「こんな大きな物も、人が作るんだ…」。感動した。高校卒業後、迷わず鉄道車両を作る笠戸事業所に入った。

 溶接や組み立てなどさまざまな分野を経験したが、特にフライス盤(切削工具)を使った機械加工が、性に合った。

 「組み立てなら、ボルトを外せばやり直せる。切削は一回削ったら取り返しがつかない。失敗が許されない。その楽しみに、取りつかれてしまった」

 座右の銘は「正射必中」だ。弓道の言葉で、正しい手順で射られた矢は、必ず当たることを意味する。

 ものづくりの仕事にも通じると思い、若手作業員にも、口うるさく説き続ける。

 今月5日、山口県庁であった受章の伝達式に出席した。

 「自分に何ができるか、迷いながら歩いてきた結果です。支えてくれた人たちに感謝したい」。にこやかに語った。

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