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温暖化へ備え暑さに強く背丈低い米を 宮崎の試験場で品種改良

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温暖化へ備え暑さに強く背丈低い米を 宮崎の試験場で品種改良

 日本人の主食、米の生産に、地球温暖化の影響が忍び寄る。気温上昇に加え、台風襲来の早期化による被害がすでに発生し、さらなる悪化が予想される。温暖化の進展次第では、世界的な食糧不足も危惧される。九州の中でも温暖な宮崎県では、暑さや風害に適応した品種改良が進む。 (中村雅和)

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 宮崎県は年間の日照時間の長さや平均気温、快晴日数が、いずれも全国3位以内に入る。温暖で豊かな自然条件を生かし、農業が盛んだ。

 県内では平成元年に県総合農業試験場(宮崎市佐土原町)で生まれ、味のよい「ヒノヒカリ」が、稲作の主力となってきた。

 ただ、ヒノヒカリには弱点があった。暑さがひどいと、米粒の中のデンプン蓄積に乱れが生じる。この結果、米粒が白く濁ってみえる「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」と呼ばれる減少が起きやすかった。

 見た目の問題だけなく、炊飯時にべとつき、味が極端に悪化する。

 一方、気温は上昇傾向にある。気象庁のデータによると、宮崎市内における平成5(1993)年~29(2017)年の年間平均気温は17・8度だった。これは100年前(1893~1917年)の平均気温16・6度に比べ、1・2度も上昇した。

 こうした気象は、米の品質に影響する。宮崎県産米のランク付けをみると、例えば16年に最高ランクの1等米を獲得したのは7・1%にとどまった。翌17年も19・1%だった。

 19年産では、ヒノヒカリを含む早稲種の6割が、最低ランクの「規格外」になった。いずれも、台風と夏の高温が、大きな原因だった。

 同試験場の下田透企画情報室長は「米の等級は、価格にダイレクトに跳ね返る」と語った。暑さのたびにランクが下がれば、農家の収入が減少する。

 同試験場は12年、「ヒノヒカリ」の改良プロジェクトを始めた。2年前の10年の平均気温が19・2度と極めて高く、米に大きな影響が出ていた。

 ■チャンスは年1回

 改良のポイントは、味の向上と同時に、暑さと風害対策だった。具体的には、地面から穂首までの長さ「稈長(かんちょう)」の、より低い品種を選別した。背丈が低ければ、成長までの時間が短く、風で倒れにくい。

 作物の栽培を始めて以来、人類は稲や小麦の稈長を短くする品種改良に、取り組んできた。

 ただ、品種改良は時間がかかる。交配のチャンスは花が咲く時期だけ、つまり1年に1回きりだ。

 温水に浸して雄しべの機能を殺した花に、交配させたい品種の花粉を振りかける。こうすれば、狙い通りの組み合わせで受粉する。この稲を田に戻して、成長を待つ。

 6年後の18年、ヒノヒカリを中心に7品種を組み合わせた「南海166号」が誕生した。苗を九州各県の農業試験場に配り、試験栽培を始めた。

 その結果、ヒノヒカリ並みの食味と、暑さや強風への耐性を兼ね備えた品種であることが、分かった。

 「品種改良は、ゴールが見えないまま、膨大な組み合わせから、より良いものを選別する作業だ。結果的に素晴らしい品種が生まれ、ほっとした」

 同試験場の永吉嘉文作物部長は、こう振り返った。

 23年、南海166号は「おてんとそだち」として、県の奨励品種となった。栽培は宮崎以外の県にも広がった。

 九州で育った「おてんとそだち」は、27年産米の評価で、1等米の比率が66%だった。他品種を含めた平均が54%だったことを考えれば、暑くなる九州で、一定の成果を挙げたといえる。

 同試験場は今後、生産方法の改善などで、全国屈指の高品質米を目指す。永吉氏は「新たな品種づくりに終わりはない。今後も、よりよい品種や栽培法の確立に全力で取り組んでいく」と述べた。

 ■深刻な食糧不足

 温暖化による農業への影響は、日本にとどまらない。

 国連食糧農業機関(FAO)は「世界食料農業白書2016」で、気温上昇による農作物の減収率を試算した。2081~2100年に平均気温が1・5~2度上昇したと想定した場合、米の収穫量は最悪で17%減、小麦6%減、トウモロコシ38%減にもなる。

 特に赤道に近い低緯度地域では激しい減少が見込まれるという。この地域にはインドや東南アジア諸国など、多くの人口を抱える国が多い。収穫量の大きな落ち込みは深刻な食糧不足、そして世界的な食糧争奪戦を引き起こしかねない。

 日本は食料自給率が約40%(カロリーベース)と低く、他人事ではない。宮崎県総合農業試験場のような、ローカルな対策の積み重ねが、必要とされる。