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ミルクせんべい製造・販売「花丸本舗」 横浜伝統のやさしい味、未来へ

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 薄くて丸いパリパリのせんべいが、一口かむとさくっと砕けて、ほのかな甘みとともに口の中で溶ける。紙芝居屋が公園で子供たちに販売していた昭和の名残を感じさせる昔ながらの駄菓子「ミルクせんべい」の味を、今も守る企業が横浜市保土ケ谷区にある。住宅街の一角に自宅兼工場として居を構える「花丸本舗」。早朝から深夜まで稼働するやさしい香りの漂う工場は「横浜の味を未来につなげたい」と、今日も奮闘を続けている。

 ミルクせんべいの考案者は、佐藤登志郎社長(68)の父、三治さんだ。戦後、兵役から戻った三治さんは昭和23年、愛知県のえびせんべいから着想を得たせんべい作りを開始。「子供たちに栄養を」と小麦粉やコーンスターチに脱脂粉乳を配合し、やさしい味が人気になった。

 ◆戦後の子供のため

 三治さんは暇を見つけては、関東近郊でミルクせんべいの製造方法を教えて歩いていたという。高温で焼く製造過程で水分が飛ぶため、腐敗しにくく衛生的だったミルクせんべいは、関東を中心に駄菓子屋や縁日の屋台などで販売された。

 昭和30~40年代には、公園を訪れる紙芝居屋が見物料代わりに子供たちに数枚のミルクせんべいを5~10円で販売。半分に折ったせんべいを耳に見立てて、ソースで顔を描きうさぎの形を作ったり、水あめや梅ジャムを挟んだり…。工夫しながら食べられるミルクせんべいは、子供たちの遊びの中に溶け込んでいた。

 佐藤社長は家を出入りする手焼き職人に囲まれ、自転車で商品を届けに行く母の背中を見ながら育った。「早く手伝って楽をさせてあげたい」と家業を継いだ。

 ミルクせんべい作りの朝は早い。午前4時半から準備を始め、同5時には機械に火を入れる。その後、午後7時まで休みなく機械を稼働させ、1日約15万枚を焼き上げる。数年前までは作業が深夜にまで及ぶことも多かったという。

 作業場の温度は夏場、約60度にまで上がる。窓から入る風の具合や気温、湿度で機械の温度や回転速度を調整するため、交代で常に目を光らせる必要がある。

 ◆油を使わずに

 カタン、カタン、カタタン-。工場の扉を開けると、むっとする熱気とともに、軽快な音が聞こえてきた。現在稼働する機械は2台。いずれも佐藤社長が独立した平成7年から使い続けてきたものだ。

 熱した鉄板の上に小麦やコーンスターチを水で溶いたタネを落とし、上から鉄板をかぶせて直径約8・5センチ、厚さ約1ミリの円形に広げる。そのまま約1分間、鉄板は高温の機械の中をくぐり抜け、かぶせた鉄板を上げると焼き上がったせんべいが顔をのぞかせる。

 油を使わずに焼き上げる作業は繊細だ。熱し方が弱いと生地が鉄板に張りつき、焼きすぎると焦げつく。一度生地が付着した鉄板はその後数日間、せんべいをうまく焼けなくなる。

 機械の外側を触って鉄板の温度を想像して微調整を重ね、小麦の調子によって水の量を変える。言葉で説明できない感覚の職人技が製造を支えている。

 ◆次女の固い決意

 「最近売っていないけれど、どこなら買えますか」「久しぶりに食べたら懐かしい気持ちになりました」「初めて食べました。すごくおいしいです」

 紙芝居屋や駄菓子屋が街から姿を消す中で、ミルクせんべいの消費量も年々減少しているという。事業を続ける原動力は、しばしば会社に届くそんな手紙だ。「この味を愛してくれる人がいるなら、続けたいと思うんです」と佐藤社長は目元を緩ませる。

 製造機械を作っていた工場はすでになく、今ある機械が壊れてしまえば「もう作れない」(佐藤社長)。大切に手入れを重ねた鉄板はつやつやと光り、「子供の体にいいものを」と創業時から無添加を守り、せんべいを焼き続ける。

 佐藤社長の次女、白砂さん(30)は大学卒業後、同社に入社した。過酷な労働環境に両親は何度も反対したが、「両親のためにもミルクせんべいを後世に残したい」という白砂さんの決意は固かった。

 入社当初は袋詰めや配達のみだった仕事も、最近は機械の調整まで任されるようになった。時には両親と議論を戦わせながら、市の中小企業支援に応募するなど挑戦を重ねている。

 現在はコンビニエンスストアを通じて西日本へも販路を拡大。市と協力し、横浜の伝統の味として売り出す道も模索中だ。白砂さんは「戦後70年続く文化。これからの子供たちにも楽しんで食べてほしい」と未来を見据えている。(岩崎雅子) =おわり

                   ◇

 ■花丸本舗 

▽所在地=横浜市保土ケ谷区仏向町1264の1 (電)045・335・0870

▽創業=昭和23年

▽設立=平成7年5月

▽資本金=1000万円

▽従業員数=12人(平成30年7月現在)

▽売上高=約6000万円(平成29年度)

▽事業内容=ミルクせんべい製造・販売

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