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【かながわ元気企業】(3)大正11年創業 横浜・磯子の甘味処「菓子一」

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 ■杉田にちなんだ商品、「歴史知って」

 横浜市磯子区ののどかな杉田商店街「ぷらむろーど杉田」。下町情緒あふれるまちには、趣深い和菓子屋がある。大正11(1922)年に創業し、和菓子作り一筋で歩んできた甘味処(どころ)「菓子一」。時代の変化とともに、和菓子を取り巻く環境が変わっていくなか、日本の風土に根ざした歴史や文化を守ろうと、3代目店主、相原一司さん(63)は伝統を継承しながら、その味を守り続けている。

 創業翌年の12年、関東大震災で店は全壊し、「日本一の和菓子屋になる」という思いを込め、その翌年に再出発した。祖父から続く和菓子屋の伝統を絶やさないようにと、創業以来、昔ながらの方法で自家製あんこを製造している。

 ◆多工程に及ぶ作業

 北海道・十勝産の小豆を使用し、こしあんやつぶあんなど、菓子の種類に合わせたあんこを製造する。店舗に併設された工房で、小豆1斗(15キロ)に水を加えながら1時間から1時間半ほど煮て、機械で小豆の皮を取り除く。

 余分な水分をしぼった後、砂糖や2~3リットルの水を入れて「あん練り機」で練り続けるなど、全作業に計5時間かけている。相原さんは「あんこは和菓子の基本。まんじゅうであれば皮をどんなにおいしく作っても、あんこがおいしくなければいいものはできない」と、多工程に及ぶ作業の手間を惜しまない。

 また、「戦後、菓子は甘ければ甘いほどよかったと聞いたが、食生活が豊かになり、あっさりとした甘さが求められるようになった」と時代のニーズに合わせて、砂糖は純度が高く甘さを感じさせない白ザラ糖に変えた。「普通に食べてもらい、喜んでもらえる菓子を作ることが最も大切」といい、「つらいときや悩みを抱えているときに、おいしい菓子を食べて一瞬でも嫌なことを忘れてもらえれば」と、相原さんの心遣いや手作りの温かさが加わった和菓子は、多くの客を吸い寄せている。

 ◆80点ずらり

 店頭には、淡い色をした金平糖から、水ようかん、郷土色豊かな焼き菓子など約80点が並ぶ。相原さんは「地元・杉田を代表する菓子を作り、多くの人に杉田の歴史を知ってほしい」と、新商品開発にも力を入れてきた。

 約20年前、店の近くにある正安3(1301)年に建立された東漸寺の先代住職から声が掛かった。永仁6(1298)年に鋳物師(いもじ)の物部国光(もののべのくにみつ)によって造られた国の重要文化財に指定されている釣り鐘「永仁の鐘」を題材にした和菓子の製作依頼だった。

 約1年後に「杉田銘菓 永仁の鐘」が誕生。鐘の形をモチーフにした皮には生クリームを使い、なめらかな口当たりの中あんには紫イモが練り込まれている。

 この菓子は、平成14年に“菓子のオリンピック”と呼ばれる和菓子を中心に洋菓子、スナック菓子などを含めた菓子業界の日本最大の展示会「第24回全国菓子大博覧会」で、厚生労働大臣賞を受賞した。

 このほかにも、かつてノリの産地として有名だった屏風(びょうぶ)ケ浦海岸が埋め立てられ、工業地帯になった歴史を表現した焼き菓子「銘菓 磯かぜ」が県指定銘菓に認定されたほか、江戸中期から明治にかけてにぎわっていた杉田梅林を題材に製造された、梅の甘露煮を包んだ焼き菓子「梅さやか」が第23回同博覧会で食糧庁長官賞(当時)を受賞し、23年度には同区主催の「磯子の逸品」審査認定事業で、「おいしい・匠の技」の認定を受けた。

 相原さんは「最盛期には3万6千本あった杉田梅林は、現在面影はなく、地名として名残があるだけ。そんな杉田の歴史を知ってほしかった」と振り返る。

 ◆日本古来の伝統

 相原さんは和菓子の魅力について「安らぎ、季節感、日本の文化、歴史をしみじみと感じさせる」と説く。普段は見逃しがちな季節の移ろいを、和菓子は少しずつ先取りして知らせている。

 例えば、2月からは桜の和菓子が店頭に並び、四季の喜びを小さな菓子に託して表現している。子供の日や十五夜など季節ごとの催事、葬式などでも和菓子が登場する。「行事の持つ意味や歴史、日本の良き伝統を和菓子とともに知ってほしい」と願う。

 日本の和菓子文化は、暮らし方や家族の形が変わり、食べる機会は減りつつある。相原さんは「若い世代の人は洋菓子に親しみを持つ一方で、反比例するように和菓子を食べなくなったと思う。和菓子を食べる日本古来の風習が廃れてしまう現状は、とても寂しい」とつぶやく。

 「和菓子を手にとっていただく機会や、きっかけを増やしていかなければならない」と、さらなる新商品の開発も検討している。「どんなメッセージを伝えて、どうしたら食べてもらえるのかを考えていきたい」。和菓子職人の矜恃(きょうじ)が、そこにはある。(王美慧)

                   ◇

 ■菓子一

 ▽所在地=横浜市磯子区杉田1の12の29 (電)045・771・7659

 ▽創業=大正11(1922)年

 ▽従業員数=4人(平成30年7月末現在)

 ▽営業時間=午前9時~午後6時半 (日曜日は午後6時まで)

 ▽定休日=不定休

 ▽事業内容=和菓子の製造、販売

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